▽ 誤解はいらない
部活終わりに部室の鍵を閉めて職員室へと届けに行く。
窓の外を見ればもう日は沈み暗くなったなぁと考える。
もう秋も終わりに近づいてきている。涼しくなってきているために、マフラーは欠かせなくなってきた。
廊下を歩いて下駄箱へと向かうさなか、体育館の電気が煌々とついているのが見えた。
「将棋部は文化部だから早く終わるのは当たり前なんだけど、バスケは力入れ過ぎだよな」
どの部活も終わっていく中、バスケだけは一番遅くまで電気がついている。
俺の足は自然とそっちに向かいながらはぁと白い息を吐きだした。
なんでも、ウインターカップだとかで冬も気が抜けないらしい…。
「敦はがんばってんのかな」
俺の恋人はキセキの世代の一人とかいうすごい肩書を持ってこの学校に来たのだが、蓋を開けてみれば中身はてんで子供だった。
同じクラスの氷室がバスケ部に入るって言うんで、いろいろと案内とか説明とかで一緒にいる機会が多かったのもあってか敦は俺の傍にいることが多くなった。
そして、何でか俺を赤ちんっていう人と重ねているらしい。
実際、時々俺を赤ちんと呼んだこと約数回…いや、根に持っているわけじゃないけどな…多分、先生をお母さんと呼び間違えるアレと感覚は一緒なのだと思う。
あまりにも赤ちんと呼ぶのでなんで間違えるのかと聞いたことがあった。
背もちょうど俺と同じぐらい、なんでも将棋とか盤ゲームがバスケ部なのにうまくて、少しつり目なのだという。
髪はさすがに似ていないらしい…俺は少しばかり長くて鬱陶しくないのと言われた。
けれど、敦ほどではないから敦の方が鬱陶しくないのかとそのとき持っていたヘアゴムを渡してやったらなんだか嬉しそうにしていた。
いつもお菓子を持ち歩いて、食べている変な奴。
けれど、その赤ちんに向ける瞳はなんだか優しくて敦が俺に近づくのは赤ちんを重ねているからだと知っている。
噂の赤ちんは京都でバスケをやっているらしくて、秋田からすればすごく遠い存在だ。
会うとしたら全国大会になるだろう。そのために、敦は部活を頑張っているのだ、バスケなんて熱いスポーツ嫌いだと言いつつ県大会まで張りきって出るわけがわかった。
けれど、そこで俺は大きな矛盾が起きることを知る。
敦が俺に告白をしてきたのだ、男同士だというのも気にしないと切り捨て、好きだから付き合ってと両手を掴まれ可愛い顔で言われたら、なんだか一瞬敦が男というのを忘れて頷いていた。
そのあとにやったぁと喜んだ敦をみて軽く後悔したことは墓場まで言うことはないのだろうけれど…。
男同士が付き合うことに嫌悪感とかはない、むしろ受け入れられた自分に驚いたぐらいだ。
けれど、敦は俺に赤ちんを重ねているんだろうということはわかった。
赤ちんはとても神聖なもので、敦が自慢したくなるぐらいに心を開いている人物。
本物こそ見たことはないが、我儘で気まぐれで短気なこいつを上手く宥めて信用させた赤ちんが特別じゃないと言われて誰が信じるというものか。
「まぁ、気にしないけど…」
基本一緒にいれればいいという敦、俺に出来ることは身体を差し出すことぐらいだった。
あと適度にお菓子をあげたりもらったりすること。
それ以上はあまり求めるようなことはしない。
とぼとぼと歩きながら体育館へと着くと部室の方へと向かう。
一つだけ開いているドアから体育館を覗き込むと自主練をしている光景があった。
けれど、その中に敦の姿は見当たらない。
どこに言ったのかと身を乗り出そうとした時俺の視界が長居腕を感じ取った、途端に後ろからのしかかる重みに振り返った。
「そこにいたんだ?」
「んー、名前ちん部活終わったのー?」
「うん、氷室は?」
「室ちんはまだやるってー、俺はもう終わりだから一緒に帰ろ」
よく見れば敦はシャツではなく制服をきていた。
着替えていたのかと知ると、中を確認する。
氷室は真剣に練習をしていて本当に先に帰っていいと言ったようだ。
「あとねー、この貸しは高くつくからっていってた」
「…おま、それ…」
「俺、逃がさねーから」
もういいだろと言わんばかりに敦に手を引かれて俺は体育館を後にする。
歩いて行くのに敦の手は離れることがなくて、俺と違い動いていたからか温かい。
少し乱暴に言われた言葉に、今日のこのあとを予測させる。
氷室に了承をとっているということは、そういうことだ。
実は俺はこの時間が苦痛でしかない、俺は赤ちんと重ねられていると実感させられるからだ。
けれど、やめろとは言えない。それは敦の心にある神様の様な存在で下手に刺激したら拗ねてしまいそうな危うさを秘めているから。
「逃げねぇよ」
「そう?名前ちんって、なんか勘違いしてるから」
「は?何がだよ、俺は別に普通だろ?」
室ちんから聞いた、と短い敦の声。
なんだかいつもより低くてそれが冗談じゃない雰囲気を纏っている。
氷室から聞いたって何を聞いたというのだろう。
俺は別に何も言ってないような……。
思い返してみて、この前氷室が間違って持ってきた酒を飲んだ時のことを思い出した。
未成年はアルコールを飲んではいけないことはわかっていたが、大人っぽい顔をしていることとあの身長だ。氷室は簡単に酒を手にいれ俺にジュースと偽って渡してきたのだ。
飲んだ俺はしたたかに酔って氷室から質問されるたびに何の迷いもなく答えていた気がする。
何を言われたかまでは分からないが、そこで何か言ってしまった可能性は強い。
「敦…?俺がなんて言ってた、とか…聞いた?」
「俺が、名前ちんのこと赤ちんと重ねてる」
「……氷室のやつ」
案の定な一言に俺は氷室に対して小さくこぼすが何かに耐えるように握っている手が強くなるばかり。
怒りも増しているのだと教えられて敦を見上げる。
「ごめん、だってお前いつも俺とその赤ちんってやつ間違えるだろ」
「それは、先生をお母さんと間違える感覚だし」
「でも、それ程赤ちんのこと好きだったってことだろ?」
「全然ちげーしっ、赤ちんと名前ちんもちげーけど、それも違うっ」
やばいと感じたのは一瞬。
敦の悲しそうな視線とかち合った。
寮につくなり部屋に入れられた、ここで逃げたりしたらそれこそ関係は悪化してしまうだろう。
けれど敦はそんな俺の懸念を知ってか知らずかぎゅっと抱きしめてきた。
敦からすれば俺のと身長差は三十センチはある。
同じ男にすっぽりと包まれてしまうのはどうかと思うが、こいつのこれは悪くない。
そうして噛みつくようなキス、俺は顔を極限まであげなくてはならなくて実は立ったままのキスが一番辛い。
「ん…あつ…っ」
いきなり抱き上げられたかと思ったらベッドに下ろされた。
見下ろしてくる瞳は悲しみの色をしていて俺は頬に手を伸ばした。
「俺はこうなってからあんたを赤ちんと重ねたコトなんてねーし、こうやってキスすんのも、セックスすんのも、特別だからってなんで気づかねーの鈍感っ」
「敦」
「俺、そんなにあんたのこと苦しめてたの?さいてーじゃん、なんで言ってくんねーの?」
ポロポロと降ってくるのは大粒の涙、俺の頬を濡らして俺まで泣いているみたいだ。
なんて子供なんだろうと頭の隅では冷静に考える自分がいるが、ただ純粋に敦からは好かれていたのだと感じて罪悪感を覚える。
「どうすればいい?」
「信じてよ、俺があんたを好きだって」
一途に言われたら頷くしかないだろう。
涙を拭ってやりながら俺からキスをした。好きな気持ちに偽りはない。
涙味のキスに笑えば、ブレザーを撫でていたかと思うと襟の辺りから手が入り込んできて突起をカリカリと爪で引っかかれた。
ビクッと身体が反応して敦の腕を掴んだら唇が離れた。
「セックスしたい」
「制服のままは困る」
敦も着たままだしとネクタイを引いて解いてやる。
着替えの服もないから本当は一度部屋に戻りたい。
けど、このせっぱ詰まった様子では待たせることも難しいだろう。
敦は汲み取ってくれたのかどうかはわからないが、俺の前に身体を起こして膝立ちになるとバサバサと脱ぎ始めた。
俺も服を脱ぎ頬についた涙を拭う。それと同時にこんなにも真面目に俺に向き合ってくれていたことを感じた。
ズボンを脱いでいると敦に掴まれ一気に抜き取られた。
「余裕ない?」
「当たり前じゃん」
小さく赤ちんと名前ちんは違うもん、と言われて根に持っていると思われているらしい。
そのまま俺の股の間に顔を伏せた敦。
慌てて手を出すのに邪魔するなと掴まれた。
「敦、止め…あっあ…っ」
腰を引こうとしたが遅く簡単に俺のそれは敦の咥内へ入った。
吸われて舐められて、卑猥な水音が聴覚を刺激してくる。
容赦なく舌を絡めてくる動きに口から抑えられない喘ぎが漏れて片手で口を押さえようとすれば、先端に舌先をグリグリとされたら力が入らなくて敦の頭に手が落ちる。
「もっ…でる…ひっあ…」
口を離せと言ったのに敦は指でOKサインをだすと後ろに指をねじ込まれて長い指で奥を刺激され耐えることもできず口に吐き出した。
敦はそのまま飲み下すことはせず後ろの潤滑剤にするために吐き出し指を増やす。
誰がそんなことを教えたんだと、氷室を思い出すがだんだんと余計な思考も霧散していく。
増える指にイったばかりで声を抑えることもできずに敦のされるがまま。
とん、と肩を押されて上体を倒すと、敦が顔をのぞき込んでくる。
必死な顔をして、俺を見てくるもんだからつい噴き出せば不機嫌が表情に現れる。
「名前ちんばっか余裕でムカつく」
「余裕じゃねぇよ、すごく嬉しくて…好きすぎて、どーにかなりそう」
キスして、と言えば不機嫌顔のまま口づけてきて舌を絡ませたら自分の味がして顔を歪ませるが構わなかった。
中をたっぷりと広げられた後熱いものが押し当てられた。
普通のものより当然長いそれは相変わらず恐怖を覚えるほどで必ず身構えてしまう。
「名前ちん、力抜いて」
「わかってる…」
こんなもの入れるところでもなければ易々と入るようにもできていない。
深呼吸して、あそこの力を抜く。
押し当てられたものがゆっくりと入ってきて慣らしはしたため痛みこそないが圧迫感が始終付きまとってくる。
それでも焦らずゆっくりと入れる敦に良い子だと頭を撫でた。
「名前ちん、名前ちん…」
「大丈夫だから、おいで」
ぎゅっと長い腕に抱きしめられて奥までしっかりと入った自身はそれだけで達してしまいそうなほどだ。
気持ちいい、と背中を撫でてやればゆっくり動き出した。
どうしても腰が浮いてしまうため枕を入れて一回一回しっかりと突き上げてくる。
余裕がなくなってくると動きが早くなる。
「あっ、あつし…んんっ、ふっ…ぅあっ」
「名前ちん、なまえちん…イく…だしていい?」
「ん、こいよ」
問われるまま頷いたら、腰を掴まれ容赦なく揺さぶられてそのまま白濁を放ち、敦は最奥を突き上げ、中の締め付けに注ぎ込んできた。
たっぷりと入れられて腰が重だるくなりながらも覆い被さってくる敦の背中を撫でる。
「で、赤ちんって誰なんだよ?」
「…俺らのバスケ部主将ー」
「そー、お前みたいなやる気ない奴をしっかりさせてくれたんだな」
「間違ってないけど、当たってもねーし」
「じゃあ、なんだよ。お前の説明はわかりにくいんだ」
事後、俺は問題の赤ちんとやらの正体を知るべく話しをした。
これまでは怖くて聞けなかったこと、話さなければすっきりしない。
敦からもういいじゃんと言われるのをしつこく聞きだした結果、俺がくだした結論は…王様みたいなご主人様だ。
しかも、赤ちん…じゃなかった赤司には俺達のことをカミングアウト済みらしい。
仲良くやるんだよ、と言われたことを聞いてしまえば嫉妬なんてとんでもないと思ってしまう。
「つまりは、敦がしっかりできるようにしてくれた人だから敬意を示さないといけないんだな」
「別にそんなんじゃないよー、でも赤ちんは優しくて怖かったから名前ちんの方がいい」
ぎゅっと抱きしめられて、まったくとため息をつく。
俺も優しくて怖くなるべきかと考えて止めた。
俺は俺なりの表現の仕方でこいつを愛せばいいんだよな…。
「そろそろ帰るか、氷室がいつまでも帰れないもんな」
「いーよ、室ちん今日は帰らないから朝まで楽しんでって言われたし」
「なんで俺抜きでそこまで話しつけてんだよお前らはっ」
「名前ちんがそうやって溜めこむからだし」
むっとして唇を尖らせた敦の唇に優しく触れた。
そこまで言われてしまえば言い返すこともできない。
すると、敦の腕は俺の身体を撫でてきて、ちょっと待ったと手を掴んだ。
「朝まで楽しんでって、本気で受け取ってんじゃねぇよ」
「俺はいつでも本気だし」
ばかやろうと口では抵抗しつつも、少し腫れた目元を見てしまえばそれ以上抵抗なんてできるはずもなく。
甘すぎるなと自己嫌悪に陥りながらも気持ちいい快楽におぼれていくのだ。
何事も、偽ることなんてできないのだから。
END