金色(110309)

金色が嫌いだ。

金。それに溺れる人間。祖父。
それを連想させる金色が、俺は嫌いだ。まばゆい黄金色の光でもって、人を狂わせる。
その典型が自分の身内だというのだから、笑えない。
金色とは、輝かしい色彩とは真逆の、どす黒く汚い色だという認識はどうしても拭い去れない。


「――カイ?」
ぼうっとしていた。正面に立ったレイが、不審そうな声で呼びかけてくる。
此方を覗き込む金色の瞳。俺の嫌いな色。
透き通った、全てを見透かすような色彩に、居心地が悪くなる。
「……何でもない」
違う意味で俺を狂わせそうなその色彩が、その金色がとても嫌いだ。見ていられなくて、ふい、と視線を逸らす。
「カイって俺の目を見たがらないよな」その金色で、全てを見透かしている。そんな印象を与える瞳が、こちらをまっすぐ見ているのが分かる。視線が突き刺さる。
「何で?」
そう問う声は、純粋に疑問であるようだ。僅かに迷ったあと、「嫌いだから」と短く返した。
「俺が?」
「目が」
「目?」
「金色」
「………?」
「おまえの、その目の色が嫌いだから」
努めて視線を逸らしながら言うと、声高く笑い飛ばされた。思わずむっとして、レイを睨む。同時に視線がかち合って、しまったと思った時にはもう遅かった。

澄んだ金色が射抜く。

金色とは、どす黒く、汚い色。
その認識を覆すような色が、此方をまっすぐ見ている。
ゆったりと笑みのかたちに細められた目は、暖かさをはらんでいる。
「俺の目が嫌い?」
「……」
視線を逸らす事は出来なかった。
さっきのように「嫌いだ」と言うことも、出来なかった。
ただ、何も答えられず口を噤む。焦点は、真正面の金色に合わさったままだ。
「なあ、カイ」もう一度、レイが問う。「金色は嫌いだって言うけど、俺の目の色も嫌い?」

嫌いだと返す、なんて選択肢は最早どこにも無かった。

人生ではじめて、この金色だけは、
「……嫌いじゃない」

口の中で消えてしまいそうなくらいに小さな声を、この虎男はどうやら拾ったらしい。よりいっそう目を細めて微笑んだ。


***
書いてて恥ずかしくなりました。





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