細腰に伸ばす手(110309)

腰の細さとか、妙な体の軽さとか。

「大丈夫か?」と声をかけようにも、それをする事は許されないような空気を、カイは纏っていた。
あの、怪しげな修道院を見てから、明らかに様子がおかしい。
いつもはしゃきりと張った背中が、心なしか小さい。前を歩くさまは、ともすれば倒れてしまいそうに見えた。
ふらりと、けれど他人には気取られぬように(たぶん、タカオやマックスは殆ど異変に気づかないだろう)、平静を装って歩く姿は正直痛々しい。
なにが彼をそこまで痛めつけているのか分からないけれど、修道院がそれのきっかけであることは間違いなさそうだった。
食事の誘いになんて乗らなければよかった、と今更どうにもならないことを考える。
「あ」
僅かに重心をずらしたカイが倒れそうに見えて、反射的に手を伸ばした。背後から抱きしめるようにして、自分より背のある身体をつかまえる。
腕を回した腰は細い。
しっかりと筋肉はついているはずなのに、カイの体は細いという印象が強い。

その細さが、また頼りなさを助長しているような気がして、たまらずカイを肩に担ぎ上げた。
「なっ、レイ!」
さすがに慌てたカイが「降ろせ」と抗議してくるが、無視した。
何だ何だと、少し先を歩いていたタカオたちが此方を見てきたので、「何でもない」と手を振る。遊んでないで早く行きますよ、とキョウジュの声が飛んできたので、少しだけ歩調を速める。

「俺より身長あるのに、簡単に担がれちまうのは、だいぶやばいぞ」
もっと食わなきゃ、と言うと、食っている、とかお前が怪力なだけだとか、言い訳や悪口じみた返事が返ってきた。抵抗は諦めたのか、だらりと体を預けている。
「…よく分からないが、無理だけはするなよ」
「余計な詮索はいらん」
可愛くないなあ、と笑い飛ばすと、「笑うな」と怒られた。カイはいつも怒ってばかりだ。
「沢山食べて体力付けなきゃなあ。俺を見習えよ」
「お前は馬鹿みたいに食いすぎだ」
「言うなあ」

いい加減降ろせ、と言う声が、やはり普段より頼りなく聞こえたので、今度の言葉も無視をすることに決めた。
「周りに見られるのが嫌なら、フード被ってろよ」そう言うと、素直にフードを被ったらしい。背中の方でごそごそとカイが動くのを感じた。

この、普段見られないような珍しい状態。これが一過性のものであるといい。沢山食べて、明日には元に戻っていると良い。弱々しいカイは、カイではない気がするから。
そう思いながら「今日の夕飯は何だろうなあ。ロシアってボルシチの他に何が有名なんだろうな」と呟いた。


***

修道院後の。





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