■ルバニアファミリー1
監督生であるユウは所謂「トリップ」というものを身をもって経験していた。
ツイステッドワンダーランド。略してツイステ。
"あの"某ネズミ会社からの公式アプリゲームとして配信され話題を呼び、ヴィランズという悪役たちをインスパイアされて作られたファンタジー学園物のゲームだ。
顔がいいイケメン生徒達が織り成すストーリーに厨二心擽られる悪役というポジションのインスパイアに彼女もそのゲームにハマっていて、配信されているストーリーは全ての章をクリアしていた。
そしてそんな彼女はなんと「本当に異世界」から呼び出された生徒だった。
顔がいい〜!!推し〜!!むり〜!!
と、当初は顔面偏差値の高さにはしゃぎまくっていた。無論乙女である故ゆくゆくはこの学園の誰かと結ばれて……
とか妄想もしていた。
だが現実は無情なり。
イケメンはイケメンでも残念なイケメンばかりだった。
顔面偏差値の高さのみでは越えられない性格の悪さ、協調性のなさ、人の話を聞かない。等とあげればキリがないそのポンコツっぷりに監督生は早々イケメンキャラとイチャイチャラブラブ(笑)の夢を叩き壊した。
数ヶ月の前の夢見てる私に伝えたい。
コイツら画面越しじゃなくてリアルで相手してみろ?顔面の良さ以外の取り柄が片手で数えられるくらいしかないぞ。と言い聞かせただろう。
そんな訳で夢小説でよくある「私は貴方とこの世界で生きたい……!!」なんていう展開はあるわけがない程野郎共への評価が地に落ちてから数ヶ月。
ストーリーで知っていたがやはりたくさんのトラブルに巻き込まれながらも何やかんやこの学園に馴染みつつあった監督生は今日も今日とて顔面偏差値だけはやたらいい仲間達との非日常を程々に満喫していたが、また新たなるイベン……ゴホンッ……トラブルが起きた。
事は数日前に遡る。
ナイトレイヴンカレッジに体験学習として別学園の生徒が数十名、交流生としてこの学園に10日程滞在するという事を突如聞かされた私達はここ数日間、学園長にそりゃあもう歓迎会の為の使いっ走りにされたものだ。
ちなみに「最近食費がかさむんですよねー。ほら、私優しいので。どこかの二人分の生徒を養っているからでしょうかねー」と態とらしく私達にそう言ってきたので断る術はなかった。
何やかんやお馴染みとなったエーデュースコンビとジャックを巻き込みつつ無事に歓迎会の準備を終わらせ、(主要キャラ達と比べると)モブ顔の生徒数十人クラスで迎えた。
「このイベント」はトリップ前にはプレイした事ない話だった為、私はまだ知らないものだ。なのでどんなことが起きてしまうのか、と内心ハラハラしていたが今の所は問題はなさそうでほっとしている。
歓迎会も終わった事だし、と昼休憩になった頃。交流生はクラスの人達に連られて食堂に向かっていった。私達も行こうか、とエーデュース二人に声をかけると何故か二人は落ち込んだ様子で「ああ……」と気力のない返事を返してきた。
「元気ないじゃんどうしたの?」
「交流生、可愛い子が来ると思ったのに……」
「男子校という荒地に一輪の花が咲くと思ったのに……」
「コイツら二人とも同じようなことを言ってるんだゾ……」
「美少女ユウちゃんを目の前にしてそんなこと言う?」
ハッハッハっ、と笑いながら男子校に紅一点の咲く一輪の花のはずの私が笑いながらエースの肩を軽く叩こうとしたがサッとそれを躱して(´・ω・)(・ω・`)審議中とでも言わんばかりに二人はお互いに向き合いコソコソと何やら話し合う。
「び……?」
「びしょ……?おい、デュース突っ込んでやれよ」
「僕が!?なんと返すのが傷つけずに済む正解なんだ?」
人の前でヒソヒソ話すな。聞こえてるぞ。だから顔だけなんだよこの野郎共。今度は軽くではなく割と本気で肩パンをエースに食らわすと「ジョーダンだってジョーダン!!……半分くらい」と彼は笑った。
嘘でもいいからそこはジョーダンだってで終わらせてとけ馬鹿野郎だから顔だけ以下略。
ちなみに、交流生には勿論女生徒も数名いる。エース達いわく残念ながら私たちのAクラスには交流生は男子生徒のみだった。
男子生徒は日替わりで各寮に泊まらせてもらうらしいが女生徒は先生達が使う寮で10日間を過ごすらしい。
もといた世界と違って数日間泊まって体験学習といのは中々本格的で面白い文化だな。とまた世界の違いをしみじみと感じた。
そのあとも交流生の話やくだらない話をいつもの様にしているとあと少しで食堂に着く手前程でエースが「あっ」と手に持っていたスマホを見て呟いた。
「でもケイト先輩曰く、なんかめちゃくちゃ可愛い女の子が3年生の交流生に居るらしい。なんでもアイドルレベルらしい」
「ほんとかっ!!?」
「声でかっ」
どんだけ飢えてるんだよ。食い気味なデュースに若干引くとゴホンっとわかり易い咳払いをして彼は「ダイヤモンド先輩がそれ程まで褒めるってことは本当に可愛い女性なんだろう」と誤魔化すようにそう言った。
「確かに、ケイト先輩ってマジカメ通だから可愛い子や綺麗な人って沢山見てそうだよね」
「マジかー一目でいいから見てみたいな」
「オレ様は交流生はどうでもいいから腹が減ったんだゾ……」
「残念だなグリム、雌猫の交流生はいないみたいだ」
「オレ様を猫と一緒にするんじゃねぇんだゾ!!」
ほらほら、食堂着いたよー。
エースの煽りにすぐのるグリムを宥める。このままだとまた魔法を使って喧嘩をしかねない。またシャンデリアをこわされて退学云々はゴメンなので話題を食堂にそらすといつもより賑わう人々に「何だか騒がしんだんゾ」とグリムも思わずその大きな瞳をぱちくりと見開いた。
「例のアイドル並に可愛い子って言うのが来てるんじゃない?」
「あっホントだ。あそこめちゃくちゃうちの学園の生徒たちで囲い作ってるじゃん」
いつもならバイキングや購買場所が混むはずの食堂はとある一角に群れをなしていて、とても賑やかだ。そしてほんの一瞬、生徒達が移動した隙間から見えたのその中央にいる目立つ存在に目を奪われて思わずポツリと呟いてしまった。
「いや、リアルシルバニア〇ァミリーじゃん!!」
交流生の女の子は白い肌、白い髪。そして長く垂れたロップイヤーのような同じく真っ白な耳をふわふわのツインテールと束ねて結んでいる可愛いを具現化したような子だった。
大きな赤いタレ目の瞳を縁取るのは髪とおなじ白いまつ毛。
眉毛は八の字を描いており、困っているようにも見えるその表情は見ていてとても庇護欲がそそられる。
そして顔だけではなく、スタイルもいい。程よく肉がついておりメリハリもある。男子高校生には堪らない体つきだろう。
うわー、と言いながら空いた口を塞げない状態の2人の口にそんなに美味しくなかった料理を突っ込んでおく「何すんだよ!!」「何だこの味……!!?土……!!?」
うるせぇ黙って食え。
「うえーマッズ。……監督生そういえばシルバニ……?さっきなんて言った?」
「んん”い、いやなんでもないよ」
「なしてるんだゾ!皆がアイツに気を取られてるうちに早くデラックスメンチカツサンドを取ってくるんだゾ!!」
グリムに急かされてハイハイ、今行くよと話題を切り替えた。
ココ最近パン購買の戦争に負け続けだったグリムは久しぶりにデラックスメンチ以下略を買えたようでほくほくとした様子で「交流生様々なんだゾ!」とパンに頬ずりしていた。