不思議な青年
ユウリと離されて西の戦場へと送られた筈のルカ、イリア、スパーダ、それとイリアのペット(?)であるコーダの三人と一匹は、チトセとイリアと修羅場がありつつも戦場から逃げることに成功し、戦時中に聞いた軍の情報を頼りにユウリが連れていかれたというナーオス基地へと向かう道中、不気味な森にてそのモンスターに襲われていた。
うねうねと触手を動かす黒い魔物はグロテスクであり、その長い触手を針状に変形させこちらへと攻撃を繰り広げる。
間一髪でルカがそれを横に避けると振り向きざまに剣を振り下ろす。
その隙にイリアが天術を唱え、水の塊が敵のグロテスクな胴体に当り、飛散するがそれをものともせずに次の一撃を振りかざしてきた。
「えっ…攻撃が効かない!?」
「こんなのあり!?ズルいじゃないのよ!」
イリアと入れ替わるようにルカも火の天術を唱えるがやはりあまりダメージを受けていない。属性の問題ではないと分かるとスパーダが2振りの剣を振りかざすが大したダメージにはなっていない、むしろその斬撃すら効いてないように見えた。
「くっそ…!気持ち悪ぃ奴だな!!」
「攻撃が効かないって、なんなの?!何とかしなさいルカ!」
「無茶言わないでよ〜!」
そうこう言っている間にも魔物の猛攻は止まらない。軍事基地にはこの森を抜けねばならない、その為撤退しても、この道しかなく、三人とも目を合わせて息を飲む。
「何かてはないのか!?」
「攻撃が効かないのは…この世界と彼らの世界の物理法則が違うからだよ」
「は?!」
「なにぃ?!」
「やあまた会ったねルカ・ミルダくん」
いつの間にか、ルカ達の背後にいたのか、その中性的な青年は淡い色のローブと赤いマントを羽織を翻してにこりと微笑んだ。
「貴方はレグヌムであった……!」
「ルカ、こいつのこと知ってんのかよ!?つか誰だよお前!」
「ほら、ボクなんかのことより彼のこと、ほっといていいの?続きが待ち遠しいみたいだけど」
「このままじゃあいつに勝てそうにないんだよ!」
「そう,じゃあ少し手伝わせてもらうよ」
魔物の前に立ち塞がったコンウェイが聞いたことない呪文を唱えると、パキィンと何か、が弾ける音が響いた。
「これは…天術!?じゃああなたも転生者…」
「これで彼の世界の物理法則と君達の世界の物理法則が複合化できた」
「は?何言ってんの!?」
「君達の攻撃が効くようになったってことさ」
「最初っからそう言えよ!」
スパーダが再び襲いかかってきた黒い触手を剣で割くと今度は攻撃が通る手応えを感じる。確かに攻撃が効くようになったようだ。
「でもこれだけじゃ興がないからもう少し手伝わせてもらおうかな…三人とも気をつけてほら、くるよ」
青年が「何か」をした事によって今度は相手からの一方的ではなく自分たちの攻撃が通るようになった為、連携を行って確実に魔物を追い詰める。
ルカが襲ってきた触手を寸での所でかわすと,大剣に力を込めて魔物の胴体振り下ろした。すると奇声をあげながら音をたてて魔物はまるで何も無かったかのようにそこから"消えた"。
「…終わった、の?」
「ナイスよルカ!」
奥の方で天術を唱えていたイリアとルカ,それとスパーダへと穏やかに笑みを浮かべている謎の青年は近づく。
「ねえ今のは天術でしょ?あなたも転生者なの?」
「そう…これをキミ達は天術と呼んでいるの?天術…悪くない名前だね…ふふふ……でも残念ながら「これ」は天術でもないしボクは転生者でもない」
「じゃああなた一体何者よ!?」
ニコリ,と人畜無害そうな笑みを浮かべながら武器として使っていた本を閉じる。
「ボクの名はコンウェイ。
コンウェイ・タウ
ここでキミ達を待ってたんだ」
「はぁ?なんのために?」
「単刀直入に言うと君たちの旅に同行させて欲しいんだ」
「転生者でもねぇ、今初めてあったやつとなんで一緒に旅しなきゃなんねーんだよ?」
「ボクのおかげであの敵を倒せたのに?」と畳み掛けるコンウェイにうっ、とスパーダ言葉につまる。
それを言い事にコンウェイは「今後同じような敵が来ないとは限らないよね」とさらににっこりと笑う。
「そういうのはお願いじゃねぇ!キョーハクって言うんだよ!」
「やれやれ……君はボクが想像していたより随分沸点が低いなぁスパーダくん」
「名乗った覚えがねぇんだけど……まじでお前何?」
「ていうかあたし達が今からどこ行くか、旅の目的も知ってるわけ?」
グイグイとコンウェイに突っかかる不良二人にあわあわと止める術を知らないルカが困り出す。コンウェイはそんな彼らを見て「知ってるよ」と微笑み返すのだった。
「この先の軍事基地で聖女アンジュを助けに行くんだろ?」
「目的まで知ってんのかよ……でもそれはあくまでメインじゃねぇぞ。ユウリつー仲間が捕まってんだよ。ナーオス軍事基地とやらに」
「……君たちの仲間?聖女アンジュ以外の……?」
「えっと、レグヌムでコンウェイさんと一緒にいた女の人なんですけど……」
なにやら険悪なムードにおどおどとするルカにコンウェイは「もう出会っていたのか……」とバツが悪そうに眉を顰めた。
「は?お前ユウリとも知り合いなのか? 」
「知り合いというか、うん。まあ色々とね……それで君たちはその子と聖女を助けに行く、と?」
「別におめぇに関係ねぇだろうが」
「あくまでスパーダ君はボクの同行は認めてくれないんだね……、ならこれでどうかな?」
「「「?」」」
コンウェイはそう言って近くの茂みへと足を運ぶと何やらゴソゴソと準備してこちらへと戻ってきたその両手には目を伏せ魘されている名前の姿があった。
「ユウリ?!」
「なんでここに!?」
「恐らく自力で脱出したんだろうね。さっきそこの茂みで倒れていたのを見つけたんだ。君たちがもしこのまま通り過ぎていたら彼女は熱や魔物に襲われて死んでいたかもしれないね」
「てめぇ……!」
よくもまあいけしゃあしゃあと口が回るものだ。スパーダの眉間に皺が寄るが今はそれよりもユウリだ。軍事基地にて録な会話も出来ないまま無理やり引き離されたのだ。
再び出逢えた母親の生まれ変わり。守ると決めたのに、コンウェイの腕でぐったりとしているユウリに怒りが湧いてくる。
「いいから!早く治療するわよ!アンタ、そこにユウリを下ろしなさい!」
「すごい熱だよ……!一度ハルトマンさんの家に戻ろうよ!」
「……いや、このまま連れていく方いいと思うよ。この森は樹海だ。"境目"の場所にあるから戻れる保証はないよ」
「じゃあ見殺しにしろってか!?」
はあ、突っかかってくるスパーダに嫌気がさしてきたのが人当たりいい笑みが消えたコンウェイが態とらしいため息を着く。
「怪我は治癒術で治るかもしれないけど熱が出ている以上時間をかけて森を出るより軍事基地、だから多分医療室に薬もあると思うしそっちの方がいいってボクは思うんだけど」
「……スパーダ、コンウェイさんの言う通りかもしれない。今はそうしよう」
「チッ……わかった、じゃあせめてオレに抱えさせてくれ。今度こそオレが守る」
「いや、君は前線でしょう。ボクは術士。後ろでの援護だ。ならルカくんと共に殿勤めてよ。ユウリの事は任せてさ」
「は?ユウリをいかがわしい目で見てるお前には抱えさせたくねぇつってんだよ」
「あーーー!もうめんっど臭いわね!三角関係だかなんだか知らないけど早くユウリを下ろしなさいっつてんの!!」
渋々ユウリを下ろしたコンウェイはイリアによって治癒術をかけられている彼女を見てイリアと同じように「めんどくさい事になってきたな……」とぼやく。
交渉の為とはいえユウリ、という名前を知ったこの女性を連れてくるべきではなかったかもしれない。あの場で放置していれば言った通りそのまま朽ち果てていたのに。
はあ、コンウェイは再びのため息をつきながらも少しだけ顔色が良くなったユウリの寝顔をただ見つめていた。