「母」の記憶



スパーダ・ベルフォルマという男はルカとそう歳が変わらない少年で、王都レグルムで産まれた転生者だった。
ある日、王都兵達と揉め事起こした彼は異能者と判明され捕縛適応法で捕まり、転生者研究所へ連行され……

そこで名も知らない女にハグされたと思ったらその女は言葉を交わすことなく牢の外へ連れ出された。

一体なんだったんだ……と抱きしめられた際にズレた帽子を直していると元々牢獄にいた少女に冷ややかな目で見下されていた。俺が何をしたというんだ。

勝手に抱きしめられて女の敵とされているのであれば物凄く不本意だが嫌悪感を向けられている少女に声をかけるわけにも行かず狭い牢屋で二人っきり。気まずい空気が流れる。

コミュニケーションをとるのを諦めたスパーダは仕方がないのでとりあえず寝れる程度の簡素なベッドに横になり、帽子を深く被って寝たフリをする。


暗くなる視界にそう言えば、先程の女に抱きしめられた時何やら懐かしい感覚がした事を思い出す。そう、まるで母親に抱きしめられてるかのような感覚だった。


スパーダは「実の母親」には、そんな事をされた記憶は赤ん坊の頃から生憎となかった。
だが、"遥か昔"には覚えがあった。といっても夢の中の話だが。


夢の中の「オレ」にはそれは、それはもう大切な母親がいた。




だけどオレの夢の中では「オレ」は人の形をしてなかった。









そう,オレはデュランダルという名の「剣」だったのだ。






【……アスラよカグヤはいないのか】

「今は休養を与えている」

【ああ……そうか。いやカグヤは少し抜けている部分があるからな……それに加えてそそっかしい。我に足があるのならば見張っていないと落ち着かない程だ……剣という立場故に世話をされてばかりだが……本音を言えばあまり無茶はしないでほしい。それに……】

「…お前も大概だな。全く親子共々心配し過ぎだ」





そして……剣であり……バカ親な剣だった。
(言葉にすると意味がわからないな)



オレは「オレ」を、デュランダルを大切にしてくれたカグヤという母親と名乗る女性がとても大切だった。だが、「オレ」は剣でしかなく、感情なんて無機質なものでその愛情に応えられていたかと言われると言葉を濁してしまう。


("今"ならちゃんと伝えられるのにな)


会えることなら会いたい。夢の中でふわふわと微笑むカグヤに思いを馳せていると何やらギャーギャーと騒がしい男女の声が聞こえてくる。
おっとどうやらまた新入りらしい。部屋の端から睨みつけてくる少女との二人っきりの空気が壊されるのはこの上ない。
安っぽいベッドから起き上がると帽子を被って立ち上がった。





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