逃げた先にいた者



ふらふら、覚束無い足取りで壁を伝いながら自分の居場所も分からないまま進んでいく。どうやらなにかの研究施設の様だがどこにあるのか、とか連れてこられた場所が検討もつかない。

ルカ達は確か西の戦場へと連れていかれた筈だがここはどこなのだろう。拘束のあと一度何か乗り物に乗せられた記憶があるためあの捕まっていた軍事基地からは離れていることはわかった。


本来なら捕まっていた他のもの達も助けるべきだったんだろうが捕まっていたのは全て転生者の可能性が高いため、適当に助けたモノがラティオの転生者だった場合満身創痍な今の状態で太刀打ち出来ると思えなかったので私を呼び止めるのを無視して立ち去っていた。

その事に罪悪感など無い。今あるのは先程行った他人の記憶の改変の力の気味悪さだけだった。

早くここから逃げなければ。立ち去らなければ。また力を使う事になるのは避けたかった。訳も分からない気味が悪い力を好き好んで使う者は居ないだろう。

幸い、管理は機械を主としているのか人の目はなく、隠れながらであれば簡単に抜け出せるようなザルな警備だった事が救いとなり、その場を早々に立ち去ると追っ手や人目を避ける為に近くにあった森の中へと逃げ込んだ。


ひやり、としたどこか不気味な空気が肌に突き刺さるが迷わず奥へ奥へと突き進んでいたが、ズキンズキンと左腕が痛み出した。

今はまでは逃げ出すことに思考がいっぱいだったから忘れていたがそういえば折られていたな、……腫れ上がる腕を抑えて、その場に蹲る。

ようやく一息……休息ができた気がした。


「とは言っても……この空気は休まらないな……」

見たことがない魔物があちらこちらへと徘徊している。不気味な森ゆえ、生態系が他と違うのだろうか?頭が回っていなかったが先程の施設から剣の一本か二本かっぱらえば良かったな……と木にもたれ掛かる。


「……アシハラから出てからとことこん運がない……」

出るべきではなかったんだろうか?だが、愛しきあの街をそのまま捨ておくことも出来なかった。はぁはぁと呼吸も荒くなっていき考えがネガティブな思考へ染まっていく。これ、恐らく熱も出てるな……どうしたものだろうか……

ずりずり、ともたれかかっていた木から段々と倒れていく。
ここで気を失ったらやばいことはわかっている。辺にいる魔物たちの格好の的になることは間違いないからだ。


ああ、でも。でも。"でも"ばかり浮かぶろくな考えが出てくる前に、瞼は重く閉じてしまった。




R



「……なんでキミがここにいるんだ?」


ラッキーなのか運がないのか……。そう思いながら目の前で気を失っている女に、彼は眉を顰めた。
どうやら腕が折れており、そのせいで熱も出ている様だ。そのためここで気絶したのだろう。客観的に眺めて答えは簡単に導き出された。


"違う世界"から来た王都でユウリがあった彼はルカ・ミルダ達がこの森を通りかかるのを待っていた。

ここは歪みが発生する境目で、文字通り"次元が違う"魔物たちが徘徊している為、ルカ達は恐らく苦戦するだろう。

それを見計らって先回りして魔物を倒せるように恩を売り、「無垢なる絆」の世界の旅へと同行させて貰おうと虎視眈々と準備していた矢先に、目の前の女を見つけてしまった。


「……排除するなら今しかないか……?」

彼女が「無垢なる絆」を狂わせるのはわかっている。感情と記憶を狂わせる女神。その転生者。
故意に落とされるという不本意な実体験したし。


ここで彼女を排除すれば、あとの任務は魂の回収だけになる。

ならばそうした方がいい。頭でな冷静な判断がそう告げるが体は火照るようにバクバクと心臓が脈打っていた。


ああ、この感覚。くそ。本当に不本意だ。本来なら可愛いもクソもない。ただの女だ。
精神汚染にも程があるだろう。


そっと、その頬を触れてみると熱かった。そりゃそうだ熱があるんだから。だが自分の手のひらも暑い。

ふにふに、暫くその頬の柔らかさを堪能してよし排除しよう、理性と勝手に情が溢れる本能がせめぎ合う。


「……どうせ排除するんだから、後でもいいかな……ああ、くそ!効率よく行きたいのにこの思考回路が既に解釈違いだこのくそ女め……」


ふに、最後にもう一度だけ頬へ触れると今度はその唇へと顔を近づけた時、「なんで攻撃が当たらないのよ!ルカ何とかしなさい!」「無茶言わないでよ〜!」という悲鳴が聞こえて助かったという気持ちとあと少しだったのに、と残念がる気持ちにまたもや解釈違いだ……と思いながらマントを翻してその悲鳴をあげる彼らの前に「助けてあげようか?」と颯爽と彼は姿を表した。


「僕はコンウェイ・タウ……君たちのただのファンだよ」


さて、あの茂みの向こうにいる未だ気づかれていない彼女はどうしようかな。


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