深愛




ひとまず、とユウリが考え無しにレグヌムとは逆方向のナーオスという街に向かう山道に向かっていると突如ユウリは誰かに後ろから手を引かれた。


「カグヤ……?」


「ん?」


あの付きまとう変出者の男に見つからなければ大丈夫だろう。そう思っていた矢先、今度は仮面を被った女に声をかけられた。画面を被っているためその顔は分からないが声や雰囲気は身に覚えのない人物だ。


しかも呼ばれた名前は夢で散々聞いた名前。思わず振り向いてしまったが人違いだろう。


「……私はカグヤ等という名ではない、」


少なくとも"今"はその名前は夢の中での存在だ。


否定をしているはずなのに段々とユウリと距離を積めてくる仮面の女に嫌な予感を感じた為一歩下がる。だがその女は気にした様子もなく、此方に歩いてくる。



「いや、カグヤだ……、お前はカグヤだろう?」


あの男といい先ほどの少年といい……この街には変人しかいないのか、そう疑いたくなってきた。人の話は聞こう。お前が言うな、というジロチョウからツッコミが聞こえてきた気がするが気のせいだろう。
いい加減女の手を振り払おうとした時、そのまま引き寄せられた。


「しつこいな、違……」


「カグヤ…ッ!!!」


「ぐふ…っ!!」


違う、その言葉を最後まで言い終わる前に思いっきり抱き締められる。見かけは華奢な女性そのものだがものすごい力で内臓が飛び出そうだ、とこみ上げてくるものを抑えて締め付けられる中ユウリは抵抗をするが効果は見受けられない。


「ぎ……ギブギブ……!!」


「カグヤ……お前だけだ。私にはお前だけだったのだ……!!」


「落ち着け……!生憎だが宗教的な勧誘はお断りしている……!」

最早何を言っているのか分からなくなるが女の力は更に強まる。私にソッチのケはないぞぉぉぉぉ…!!
そんなユウリの必死の叫びも虚しく淡々と女は独りで語り始める。


「絶望に染まった私を支えていたのはお前の存在だった、お前が笑っていた記憶があったお陰で私は……俺は……!!」


余程興奮しているのかそれとも最初から聞く気など無いのか,女はユウリの抵抗をものともせずにそのまま一方的に何かを言っていた。ううぅぅ……なんなんだ……!!都会怖い!!アシハラ帰る!!!!やだアルカリ滅ぼしてから帰る!!!!



「仮面刺さってる…!………!!」

も、無理だ…
あまりの苦しさにそこでユウリは意識を手放した。













「マティウス様…この方は?」

「私の命より大切な者だ。丁重に軍事基地へ運んでくれ。イリア・アニーミを捕まえた後で私も彼女を引き取りにそちらに伺う」




マティウスと呼ばれた仮面の女はそう言って近くに控えていたフードの男達に担がせたユウリの頬を愛しいそうに撫でた。

「嗚呼カグヤ………カグヤカグヤカグヤカグヤ,カグヤカグヤカグヤ…カグヤ……!!」


マティウスが縋るような手を離すとフードの男たちはユウリを両脇から抱え,そのまま山道の方へ移動する。



「今度こそは共に逝こう…」


女はそう呟いて赤い髪の少女が逃げた方向へ足を速めて進んだ。


「この女もアスラ……?おかしいわねぇ。じゃああの少年は……?……なんにせよ狂わせすぎるのも問題ね」



とりあえず早く起きなさいな。

ユウリは薄れる意識の中、どこかで聞いた事あるような拗ねた女性の声が聞こえた気がした。





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