一方その頃のパシリ
その「少年」は故意や恋やら云々でその男女が揉めていた場所からそんな離れていない場所でダークボトルを被ったような負のオーラを出しながらトボトボと歩いていた。
「はぁ……」
人生で何度目かわからない溜め息をつくが現実は変わらない。
友達……いや、多分違うな……、クラスメイトに「勇気をつけるため」という理由で行きたくもないフルフィの森に行くことになった。
勇気の儀式、とか言っていたけどただ僕を弄りたいだけなんだろう。……はあ……。
「僕…こういうの苦手なのに…」
クラスメイトに渡された木刀を見ながらまた溜め息を吐いた。こんなおもちゃみたいな剣でどうしろって言うんだ………振り回せば確かに魔物位なら倒せそうだがその勇気がないのだ。
「僕には無理だよ……」
紺色のジャケットに黄色いスカーフを巻いた如何にも"おぼっちゃま"な銀髪の少年はその大きな緑色の瞳を滲ませて今にも泣きそうだ。
そんな少年の名前は"ルカ・ミルダ"
先程青年が言っていた覇王、アスラを前世に持つ少年…………
には気弱そうなその態度からはそう見えないが前世 "は" 凄かった少年だ。だがその覇王が自身の前世だと知るはずもないその少年は何度も同じ事を思う。
夢に出てくるあのアスラが、
自分がアスラなら、
僕がアスラみたいに強い男ならよかったのに。
そして今の脆弱な自分と比べて再び落ち込む,
ルカは飽きずにそれを繰り返しては周りにバカにされ続ける……要は物凄くネガティブな少年だった。
「あ!早く行かないとまたなにを言われるか………」
落ち込んでいる場合ではないと用事を思い出した彼はいつものネガティブ思考を振り切り、お世辞にも上等とは言えない木刀を抱え、街の南門に向かって走った。
遅くなったらまた罰としてとか言われてホットドック奢らされる!それだけは勘弁してほしいと走る足に力を込めたルカは
目の前を歩いていた目立つ二人組に気づかないほど、慌てていた。
「いい加減に離せ」
「離したら逃げるでしょ?」
「……お前は頭がブロッコリーか?」
「それを言うならピーマンでしょ……おっと」
「うわ!!」
案の定考え事をしていたルカは前から歩いてきた人達に気づかずにぶつかってしまった。
バサッと紙の固まりが落ちた用な鈍い音がルカと二人の間から聞こえた。
「あ、あのすみません……!!僕その、急いでいて……!!」
「こっちこそごめん、大丈夫かい?」
「ふふ、ざまぁ。ざまぁ」
「五月蝿いよ。君こそ怪我はないかい?」
「あ、はい!!」
男から差し出された手を掴もうとしたルカは、手を差し出した男と連れの女性に釘つけになった。
(うわ……!!よく見るとすごい美男美女だぁぁぁ……!!)
ぶつかった男の方は女性に思えるほど綺麗な人だったが声を聞いて男の人だとわかった。だが性別を見間違える位美人だ。もう一人の女性は無愛想な顔をして顔に大きな傷と眼帯を付けていたが同じくすごく整った顔立ちをしている。
というか……本を拾いながらも離さまいと手繋いでるし、やっぱり恋人同士なんだろうか?他人なのにそんな下世話な考えを一瞬浮かぶが、彼が拾い上げた本を見てルカの顔から血の気が引いた。
「すみません!!!こんな高価そうな本なのに……!!」
「構わないよ、それよりほら、立って」
とりあえず立とうと、ルカは男が差し出した手を握る。その握った掌に多少の違和感を感じたがぶつかった際に男が抱えていた辞書のように厚い本を落としたという事に気をとられ,そんなことには気が付かなかった。
別に本の持ち主の本人は気にしてはないようだがルカはとにかく慌てていた。
「そんなに高価そうな本……傷でもついてたら……あ、そうだ!!なにか困った事があったら僕の家を訪ねて来てください、ぼ、僕はルカ、ルカ・ミルダ。街の人に聞けばきっとわかるから……」
「コイツいいと言っているのだからいいだろう。……お前は男のくせになよなよし過ぎだ」
「す、すみません……!」
(こ、こ、この女の人怖い!!!)
女性の方が整った顔をしていても不機嫌なのは隠せない。それと顔の傷や眼帯のせいで尚更怖い印章になってしまっている。
そんな怯えたルカの様子を気にするでもなく,男はルカの名前に目を見開いていた。
「ルカ……ミルダ?ここはやはり王都レグヌム……そう。じゃあ君なのかな……」
「え……?」
「僕は魂の救済者、二つの魂を救うためにこの世界にやって来た。もしかすると君は世界の真実を知らなければならない人なのかもしれない」
「……?」
「例えそれが、その身を引き裂かれるほどの真実であったとしてもね」
落ちた本をはらいながら、男はそう呟いた。
ルカからしてみればそれは凄く唐突で『何だこの人』と思ってしまった程だ。男はそのまま一方的に話を続ける。
「ふふ、……君とはまた逢いそうだ、楽しみにしているよ真実を知ってなお、僕の手を借りることなく君の魂が救済されることを……じゃあ」
「魂の……救済?世界の真実?それってどういう……あッちょっと待って!!」
そして、男は女の手を引き、去っていった。
「なんだったんだろう……ヘンな人達だな……まあいいか、それより裏の森に急ごう」
ルカはそのままもやもやした気持ちで足をフルフィの森へ進めた。
「なあ,知ってるか?」
「なんだい?」
「我が故郷アシハラでは貴様のような者を「厨ニ病」というんだぞ」
「失礼だなぁ、僕はいたって普通だよ」