愛されていた子供



それから時は流れて、とある港町。


行き交う人々が賑やかに言葉を織りなす中、花飾りをつけた金髪の少女はある場所へ駆けて行く。


あまり遠くへ行くのも、帰りが遅くなってもダメよ。


母に言われたその言葉を守らないと、と思いながらも少女には母に内緒にしていることがあった。


「よう×××、今日も元気だねぇ」

「こんにちはおじさん。アップルグミをちょうだい」


にこり、と微笑む×××と呼ばれた少女に今日も可愛いね。と道具屋の店主は笑いながら頼まれたものを渡すと×××はお礼を言いながらまた走り出した。

その街に行き交う人々は皆黒や茶といった落ち着いた髪色なので唯一金色の髪の×××一際目立っていた。
自分が視線を集める存在とわかっていた×××は内緒の場所がバレないように、と彼女はこっそり裏路地に入る。
そして入り組んだ道を奥へ奥へと進んでいくと人気のない場所で壁にもたれかかりぐったりとした青年がそこにはいた。





「傭兵さん、傭兵さん、お怪我は大丈夫?」


「……また来たのかお前。帰れ。親や大人達に見つかると面倒だと言っただろう」

「でもお怪我をしてるもの。ほらアップルグミ食べる?」

「……それは貰う。だがこれ以上関わるな」


意地っ張りなんだから。
そう言って微笑む少女に言い返さない青年はバツが悪そうに視線をそらした。
数日前、友達と隠れ鬼をしていた×××がたまたまこの路地に隠れた時、怪我をして動けなくなっていた自称傭兵の青年を見つけ、それ以来道具屋で買ってきたやグミなどを親や街の人に内緒で私に来ていた。


「……いいか、ここで俺を見た事は……」

「絶対に言わない!!でしょ!大丈夫だよ!」

「……ならいい。早く帰れ。俺もそろそろここから去る」

「えっ!?でもまだお怪我治ってないよ?」

「このくらいの傷なんてことは無い。……よくある事だ。いいから行け」

「むむむ……!また来るからね!!治るまで逃げちゃダメだよ!」


これ以上留まると青年が何をいっても反応しなくなるので×××は渋々来た道を戻っていく。
今日は来るのが遅かったせいで日は少し沈み始めている。急がないと、お母さんに怒られてしまう。

はぁっはあっと少し息が苦しいけど走っているとどこからか声が聞こえてきた。


「いいな」


「?、誰かいるの?」


ぽつり、と聞こえてきたその言葉に×××は声が聞こえてきた方へ声をかけるが返事ではなく再び「いいな」とだけ返ってくる。

空耳ではない。誰かいるのだろうか?まさかまたあの傭兵さんみたいに怪我をした人だろうか?
×××がいるのは裏路地の人気がない場所だ。だが奥の暗がりの方から姿は見えないが確かに声が聞こえてきた。


高めの声からして恐らく女性がいるであろう場所に×××は「何がいいの?」と聞いてみる。



「花の女神のように綺麗なのがいい」


「お花?この髪飾りかしら。お母さんにもらったのよ」


「心が優しいのがいい」


「優しい……?傭兵さんにアップルグミを渡した事……?あっ内緒よ!お母さんにバレたら怒られちゃうの」


「見た目も美しいのもいい」


「うつくしいもの?どういうこと?」


「友が沢山いるものいい」


「友達は沢山いるわ!隣の家のみーちゃんに道具屋のたっくんに……」


「華やかな笑顔がいい」


「!笑顔ね、!!お父さんがよく褒めてくれるの!ありがとう!」


「両眼があるものがいい」


「?、おかしなお姉さん。誰だってお目目はあるわ」


「きれいな かみ をして いるもの がいい 」


「この髪色のこと?アシハラでは確かに珍しいのかもしれないわね」




姿が見えない者の問にも関わらず一つ一つ答えを返す少女に気を良くしたのかいいなぁ!!いいなァ!!いいなァ!!!!と女の声が次第に大きくなる。



「あ……、わ、わたしお母さんとお父さんが心配するからかえらないと、」


大きくなっていく声に流石に×××は身の危険と恐怖を感じ、逃げ出そうと駆け出した時










「素敵。素敵だわ家族にも愛されてる」






「ねぇソレ、わたしにちょうだい」










暗がりから伸びてきた爪が剥がれて赤く染まった手に少女は引かれ、





その日からアシハラから×××という少女は居なくなった


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