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「ふぉんすぇん?」
「食いながらしゃべるな」
その話になったのはストーンべリィ近くの平原で野宿中の出来事だった。マギルゥが言い出した「また温泉にゆっくり浸かりたいのぉ」という発言が始まりだ。
ごくん、ベルベットの特製のパルミエを飲み込むともう一度「温泉?」と話題を繰り返した。
「そうでフよー!!前にみんなで行ったんでフ!」
「ビエンフー……その話を掘り起こすのはやめなさいと何度も言ったでしょう……!!」
「えーー!!ずるいよ!!私抜きで行ったのー!?」
「あの時あんたは寝ていたでしょ。……それにいいものでは無かったわよ……いろんな意味で」
「そうか?いい湯だったぞ!」
また入りたいなぁ、と呟くロクロウに便乗して私も行きたい!!と言うとエレノアに大きな声で「却下です!!」と遮られた。何故そんなに否定的なのかとむっ、としてしまう。
「確かにいいお湯でした……、いいお湯でした、が!!あんな経験は懲り懲りです……」
「僕も……ちょっと……」
「えっ?なに?何があったの?」
「……お前は知らなくていい」
「はぁ……この話はもういいでしょ。ほら食べ終わったのなら片付けるわよ」
どうやら温泉で「何か」が起こったらしく、気にしていないマギルゥとロクロウ以外はみんなどんよりとしてる。ご馳走様でした、とお皿を渡したベルベットも「あたしはフィーだったからまだ良かったけどね」って呟いていてライフィセットがもーーー!!その話はやめてよ!!なんて叫んでいる。本当に何があったんだ……?逆に気になってくる。
「いいじゃないでフかー!旅の疲れを癒すのにピッタリでフし!!」
「またぶっとばされたいのね?」
今度はねこにんの体じゃないわよ。
そんなセリフを吐いてベルベットが投げ飛ばしたビエンフーはびえーーーーーん!!!!なんて泣き叫びながら遠くに飛ばされてベチャッ、と顔から着地していた。
でも誰もビエンフーを気にせずに食後の片付けをしているからもはや慣れだ。
「温泉行きたかったなぁ……」
「……"普通"の温泉に今度連れていってやる」
「なんじゃ?混浴宣言か?」
バキッ!!!!
結構鈍い音がマギルゥの帽子越しに聞こえた気がした。アイゼンがぎらり、とマギルゥを睨んでいる。あれは痛そうだ。こりゃ~~~!!か弱い乙女をなんだと思っておるのじゃ!!!そう言ってアイゼンの背中をバシバシ叩くマギルゥを視界にいれつつ、私としては先ほどアイゼンの言った単語が気になっていた。
「?、普通じゃない温泉だったの……?」
一方その頃、置いていかれたビエンフーは地面に頭を擦り付けて泣いていた。割と本気で。男泣きだ。
エレノア達が見たらきっとドン引きである。
「くーーー……!……ソーバーット!!!!エリアス姐さんのあの小麦色の健康的な肉体美を見れるチャンスだったかも知れないでフのに…………ベルベットの夢の詰まった"浮き輪"やエレノア様のクビレが…………」
マギルゥ姐さんはいいでフ。最後に若干失礼な事を言ってぐすぐすでフでフと唸っているとガシッとビエンフーの可愛い帽子が"誰か"に掴まれた。
「おいブタザル」
「びえーーん!僕の名前はビエンフーでフよ!!!」
これ以上僕を虐めないで下さいでフ~~~!顔を上げて見ると,そこには…………
「その温泉の話…詳しく聞かせてもらおうか!」
ニヤリ、と笑ったその"聖隷"にコイツ……同志か!!と視線だけでそれを感じ取ったビエンフーがフフフ……いいでフよ……と「第2回温泉計画」をその聖隷と話し合うことになった。