Helianthus Annuus | ナノ
Prolog🌻 [ 20/156 ]

――――――声が聞こえた気がした。


そこは人里離れたとある崖の上。人なんてとても住める場所ではなく、誰かいるとは思ってなかった。

そう、そこへ寄ったのはたまたまだ。

一緒に旅をする連れが他に用事があり、ならば自分は辺りを探索しておこう、と近くの海辺を歩いていて、こんなに綺麗な海なら高所から見たらもっと美しいだろうな、と思い至って近くにあった苔や蔦が生い茂る崖を登った事がきっかけだった。

そこに深い意味もなく、本当にただ「綺麗な景色が見たかった」だけだった。
だか、垂れ下がった蔦使ってその崖を登り続けていると声が聞こえた気がした。

女の子の声だ。祈りを捧げる、女の子の声が。




どこから聞こえるのだろうか?と耳を澄ますと今自分が登っているこの崖の上から聞こえてくる。
なぜこんな所に?いや人のことは言えないのだが。と内心自虐しつつも登りきる。
蔦があったとはいえ流石に疲れたな、と少し赤くなって擦り切れた手を拭って声が聞こえた先を振り返るとそこにはこんな崖の上にぽつりと祠が経っていた。

何も無い、苔と雑草が溢れたこんな場所に。いや海が綺麗に見えて眺めはいいが長所はそこくらいだろう。不思議に思いながら祠へと近づくと女の子の声が次第によく聞こえるようになってきた。



「かみ様、かのぬし様、あめのち様。どうか街を守ってください」


「どうかおねがいします」


「わが身をさざけます。どうか、おねがいします」




祠から発せられる声はそればかり何度も何度も、まるでほかの言葉なんて知らないみたいにそればかり呟いていた。

どんな子が居るのだろうか、と祠の扉に手をかけようとしたがどこか宗教じみた紋章と作りから勝手に触らない方がいいのではないかと判断して、ひとまず壁越しに声をかけることにした。


「おーい、聞こえてるか?」

「!!、だれ、……?おしょくじ、はこぶひと?今日じゃないよ。あとよるが三回こないとこないはずなのに」

「?、食事を運ぶ人……?って事は捨てられた訳じゃないんだな。いきなり話をかけてビックリさせてすまない。私は旅のものだ。こんな所に人がいるなんて驚いたよ」


出来るだけ優しく声をかけたつもりだが返答は帰ってこない。しばらくして一泊ほど、間をあけて祠の中から恐る恐るといった声色で少女の声が聞こえてきた。


「たび、のひと?」

「そう、旅をしている人。君はなんでこんな所にいるんだ?」

「……いけにえだから、あめのち様に、ささげられないと、村がこわれちゃうから」

「いけにえ……それに捧げられるだって?……それは君や君の家族は納得してるのか?」

「かぞく……?よく分からない、けどわたしはずっとここにいるよ。たまに、おしょくじ、運んでくれるひとくるくらい」

少女の声に嘘は感じられなかった。だとしたら、それはなんて残酷なことだろうかと旅人は思った。
家族の温かさも、愛も知らずに彼女は物心着いた時からここに閉じ込められ生贄として捧げられる事を祈り続けているのだ。
助けるべきか連れ出すべきか、と旅人が持っていた武器を構えた時、少女が「たびびとさん」と声をかけてきた。


「……なんだ?」


「わたしね、おはなが見たいの。おはなってねすごくキレイなんだって。いけにえとしてこのほこら、でる時に一目でいいから見てみたいの」

「……外に出たい、とか自由になりたいとかは思わないのか?」

「そとにでたら、あめのち様おこっちゃう。だからね、おはな見れればいいの」


こわくないよ、さびしくないよ。ほこらしいことだもの。それを繰り返して話す少女の声に旅人は何も言わずに武器を下ろした。


「……私は、君を"助けられない"。ならせめて君の願いを叶えてあげよう」


壊れたように繰り返す少女はそれが「使命」だった。そんな彼女を無理やり連れ出せば非難の嵐に幼い少女が耐えられるはずが無いだろう。
こんな子供に背負わせる「使命」には半ば納得はしていないが、せめて望むことくらいはとポケットからとある「種」取り出した。

「丁度な、ひまわりの種を持っているんだ。元々食料用にと持ってきたものだけど君に譲ろう。咲くかは分からないけどここに沢山植えていく」

ひまわりの種は元々油分が多く、ナッツと比べても高カロリーだが荷物としてはかさ張らない為、遭難などをしたさいの非常食程度に貰っていたがまさかこんな所で役に立つとは。祠を中心にぐるりと種を巻いていく。苔まみれだし、海も近い為潮風でまともに育つとは思えないが、気休め程度にはなるだろう。

一通り撒き終わると、祠の少女に声をかける。

「沢山植えたから、いつか芽吹いたら沢山咲くと思うぞ。他になにかしたいことはないか?」

少女が一言、「助けて」「連れてって」と言えば旅人は助ける事はやぶさかではなかったのだが少女は決してその言葉たちだけは口にすることは無かった。
少女は「たびびとさんの話をきかせて」と旅人の話を聞く事を望んだ。

体験したことの無い話を
見たことの無い世界の話を
聞いたことの無い言葉の話を



「いいなぁ楽しそう」

「なら外に出てみるか?」

「ううん。それはだめなの」


私はおはながみれればそれでいいの








そうして少女が花を見れたのは彼女が19の歳、初めて祠を出た日。

生贄として捧げられた日に目の前に広がっていたのは黄色の花畑だった。






🌻






あれれ?私寝てたのかな?

ゴポリ。
口から出た気泡が海底から上がっていく

パチリ。
何度も瞬きを繰り返すが先程まで見ていた黄色い花畑は勿論眼前には広がっていない。


はて?では、今見たのはなんだったのだろうか?
夢?人魚って夢を見るのだろうか?本当は睡眠なんて必要のない種族なのに。


「黄色い花畑……?」


たしか沢山陽の光に向かって咲くお花の色は真ん中が茶色で、花びらは黄色!
なんて言う名前の花なのかなー、人間の書く本があれば分かるかも!
人間が好きな変わり者の人魚は今日も尾びれを揺らしながら人の世界へと憧れを抱きながら海底を舞った。



これはとある人魚の話、
人の世界に夢を見る、××××の少女の話。


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