血まみれの女 [ 38/156 ]
「プハァッ……ッ!!」
肺が久々の酸素に喜びを上げる事がわかる。ゼェゼェと浅い息を繰り返して呼吸が整うのを待つ。
「ようやく、着いた、ぞ……!」
先程見えた大きな穴の空いた岩礁へ何度か溺れる危機があったが無事たどり着くと、体を倒して酸素が体に行き渡るのを感じて、起き上がる。
すると、俺の着ていた白いシャツは再び夥しい赤で染まっていた。
「…また…血か……」
どうやら俺の勘は当たっていたようだ。
砂浜と違って黒い岩礁で分かりにくいが確かに赤い跡はこの奥へ続いていた。
長らく波に揉まれてこの洞窟が出来たのだろうか、
海が満潮の場合や荒れていたら見えなくなるであろう岩礁の穴へ水を吸ったブーツでベチャベチャと不快な音をたてて赤い跡を辿った。
複雑な作りの洞窟に少しずつだが、波が入り込んでくる。恐らく夜にでもここは海水で満たされる。
ここにいたら溺れ死ぬ、ゆっくりはしていられないと歩を速めると微かにだが「誰か」の呻き声が聞こえた。
「この奥か……!」
赤い道を辿って角を曲がり、走る音が反響する中辿り着いたのは
岩礁の洞穴の最深部……、海水が満たされている中で
頭から血を流すエリアスがいた。
「ッ───────エリアス!!!!」
慌てて、海水の中に入り透き通る海を赤く染めるエリアスを体に響かないようにそっと起こすと頭から流れている血が赤黒くなっている事に気づく。数時間前とかそんな時間じゃない。数日前にやられた傷なのだろう。
人魚が隠れやすいこの洞穴に身を隠していたのか、いや今はそんなことどうでもいい。回復の聖隷術をかけるがエリアスの血は治まらなかった。
怪我の部位を見ようと顔を正面に向かせると、その傷の原因に息を飲んだ。
「片耳を…やられたのか…!!」
エリアスの傷は頭からではなく、耳からだった。
えぐり取られたように片耳が無くなっており、血が滴っていた。
「人魚の身体の一部を食らうと不老不死になれるんだって」かつてのエリアスの言葉が頭を過ぎる。
これは明らかに業魔から受けたキズじゃない。海賊をやっていて嫌という程見慣れてしまった”剣や刀などの刃物によって負った傷”だ。
「ここまでするか…!!人間…ッ!!」
自分の聖隷術だけではエリアスはどんどん体力を消耗している。
頭上の岩礁を無理矢理殴ってぶち壊して穴を開けるとアイゼンは空へ向かって聖隷術を唱えた。
パキィンーーー!!甲高い音をたてて空に大きな氷が無数に広がる。それに向かって風の聖隷術を喰らわせると氷を切り裂き粉々になった氷が光を反射して花火のように散らばる。
これは聖隷術で居場所伝える時にとる最終手段だ。今回は割と大きな氷で作った為、多少島から離れていても船員たちがきっと船で向かって来てくれることを願って俺は冷たいエリアスの体を抱きしめて聖隷術を繰り返した。
「あれは……副長の救援だ!」
「なんであの人海の上にいるんだ?!」
「いいからほら、行くぞ!……嫌な予感がする」