Helianthus Annuus | ナノ
人魚という存在 [ 127/156 ]

────場所は変わり、パラミデス神殿にて。
ベルベット達はエリアスを置いてから先に辿り着いた遺跡で業魔達を淘汰しながら奥へと進んでいた。

「アイゼン、手袋破れているよ」

「ん?ああ。チッさっきの敵か」

「お前ってマメだよなぁ同じのを何枚も仕立てているんだろ?」

「拘りがあると言え」

ライフィセットに指摘されて気づいたが先程斬撃系の的を倒した際に破れたのだろう。敗れた部分がぶら下がって鬱陶しい為、手袋を取って乱雑にコートのポケットにしまい込んだ。
そのまま続けて襲ってきた敵を殴ると直に手に付着した敵の血を振り払う。……やはり手袋なしだと感覚が違うためなれない。

襲い来る敵をいなしながら遺跡の奥へと進んで暫く、ライフィセットがとある壁面を見つけて立ち止まった。


「これって……」

「人魚の……絵でしょうか……?それにしては何か不気味に掘られていますね」


遺跡の壁一面に人魚が海を泳いでいるような絵が彫られているが、エレノアの言う通りどこか不気味な雰囲気を漂わせている。
この絵、向こう側まであるみたいだよ。とライフィセットが壁つたいに先を指した。

「これは……古代語ではないな。古い言葉には変わりないが1000年前程の割と新しい方だ」

「1000年が新しいのかよ……アイゼンは読めるのか?」

「……待ってろ。今解読する」

海風に晒された場所故に建物の風化も酷く、読める所の限り読み上げていく。


────雨を降らせたまへ、
海の怒りを鎮たまへ、
海の恩恵を願いたまへ。
水を司る我らが神へ捧げるのは”神への使徒”




「神への使徒……つまりどういう意味?」

「……簡単に言うとアメノチに生贄を――――――人間を捧げるからその代わり水に関わる災害を無くせってことだ。
昔は聖隷への生贄文化が盛んだったからな。……聖隷はそんなもの欲しがっている訳では無いが、人間は犠牲を払えば対価が貰えると勝手に押し付けていた。犠牲が大きければ大きいほど恩恵も大きいとな」

「だから供物ではなく人を生贄に……」

「神の使徒なんて、大層な言葉を使っているが要はただの人柱だ」

「……その生贄と人魚ってどう関わりが?」

ベルベットが生贄、という言葉に反応して顔を顰める。だが、足を止めることを咎めないことから、ベルベットも続きが気になるらしい。

「元々海に沈んでいただけあって欠けている部分が多くてその辺はここの翻訳だけではわからん。……人魚の事ならそこの魔女の方が詳しいんじゃないのか?」

いつの間にかに合流して呆気からんと最後尾に居た魔女に話を投げかけるが下手な口笛を吹いてこちらを見ようともしなかった。

「……残念ながら儂は必要ないことはすぐに忘れてしまうからのー」

「はあ……続きはこのまま伝えば読めるわけ?」

「恐らくな。読めるところは翻訳してやる」

その後、暫くは壁は塩害の影響で酷く崩壊しており、内容は読めなかった。エレノアの言う通り、少し不気味に彫られた人魚の彫刻が続くばかりで肝心な文面は読めない。

暫く進んだ先で要約、神の使徒────生贄が人魚と同関連するのか重要な部分が何とか読めた。




─────に──れる前に─────出来損ない
────の口に────混ざった────
半端な────────存在────────
血────の穢れ────

【主】はそれを吐き出した




「混ざった、……出来損ない……?」

吐き出した、という単語に何故か背中に汗が伝う感覚がした。この石版は一体「何を」伝えようとしているのか。
凸凹とした壁に触れひび割れた部分を読み解こうとするが、壁が元に戻る訳もなく、速足で続きが分かる壁面へ向かう。

「アイゼン?続きが読めたの?」
「……破損が酷くてここもこれ以上は無理だ。奥に続きがある。そっちを読もう」

ライフィセットがこっちにもあったよ、と導いた壁面は比較的破損が少なく殆どの文字は読めたが、段々と様子がおかしい内容になっていく。


成熟した"神の使徒"では海難を産んだ
主はソレを望まなかった

未熟な"神の使徒"では 雨を絶った
主はソレを望まなかった





……要約すると大人を捧げたが海難が起こり、ならば今度は子供を捧げたら雨が降らなかった。それをアメノチの怒りだと解釈した、と。
巫山戯ている。勝手に理想を押し付けて、ああでもないこうでもないと、人柱を変えて色々な可能性を「試した」という記録だ。



ならば神の使徒は成熟前に捧げよう
だが早熟過ぎてはいけない

知恵を与えてはいけない
欲望を抱えさせてはいけない
地上の穢れたモノを食べさせてはいけない

無垢なモノを育てよう
無垢なモノを捧げよう



そう記されている部分には祠に閉じ込められた少女の石画がそこにはあった。無垢なモノ、つまりは赤ん坊から祠に閉じ込めて生贄を作った、ということだ。

席画の少女は苔で髪の部分が緑色となっているだけだろうが、それが何故か人間の世界へと興味津々だったとある人魚が思い浮かび、嫌な予感は大きくなっていく。


「………これではまるで、人魚は……」
「……生贄と関連して記されているのなら、答えはわかってるでしょう」
「?、つまりどういうことだ?」

「……先に進めば分かる。続きは向こうにあるようだ」



壁の端に着く。覆っていた苔を剥がすと壁の最後、が見えた。そこは欠けておらず文字が読むことが出来た。





捧げた"無垢なモノ"も主の口に入る前に
魚ごときに喰われ息絶えた

そうしてほかの出来損ない同様
人魚へと変わった

海に戻りたまへ
海に戻りたまへ




――――――魚ごときに喰われ息絶えた。
それを示す意味は……最後の一文を読む為に苔を剥がそうとした瞬間、背後から聞き覚えのある澄み渡る声が遺跡の中に響いた。


「アイゼン……!!」
「エリアス!?」

慌てて駆けてきたのだろう、こちらに飛び込むように躓いたエリアスを抱き留める。
先程手袋を外してむき出しの手がエリアスの二の腕に触れた瞬間、目を見開いた。


ボタボタ、ボタリ。落ちた苔が最後の一文の姿を表した。エリアスを抱き留めた背後に、その文字が見えてしまって、息が止まった。



海に戻りたまへ
海に戻りたまへ



主に承った加護が尽きるその前に

出来損ないが





死体に戻る前に





初めて手袋を外して触った彼女の素肌は────

まるで死人のように熱を感じさせない程冷たかった。

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