Helianthus Annuus | ナノ
大切な記憶 [ 115/156 ]

「へえっくしょ……!!」

「なんだい、リアちゃん風邪かい?」

「いやこれは多分噂…………」


寒くないはずなのにな、と何も出てない鼻を念の為拭う。
声をかけてくれたのは海辺で飲食店を営む店主だ。あれから行く場所も行ける場所もないと泣いていたエリアスを見兼ねてオスカーが戦力として働けないのであればせめてここで働きながら主人を待つといいと紹介してくれた場所だった。
聖寮の人たちもよく利用するため内心冷や汗をかいたが悪い人達はいなかった。

タバサ達のところで一度配膳の仕事をしていたこともあってか仕事自体には何ら支障はなかったがもう少し笑えたらいいのにと言われ続けもっぱら笑顔の練習中である。


「また迷子になってるから噂して探してるんだろうな……」

「誰が迷子なんだ?」

「あっオスカー」


いらっしゃい、と練習中である笑顔で笑うと「元気そうだな」と彼は笑った。彼は聖隸(と思っているはず)の私にも優しい。
なぜこんなに親切にしてくれるのか訊ねた所姉と同じ年頃の女性を無碍に扱う事は出来なかったそうだ。
仲がいいんだね、と言ったらドヤ顔でそうだと返されたのでこれはマギルゥの言っていたシスコンと言うやつかもしれない。


「聖殿の警備おやすみなの?」

「ああ喰魔が大分落ち着いてきたからな。君の主人から聞いてないのか?」

「えーとああうんそんな感じのことイッテタキガスル」


喰魔。よく聞く単語だ。意味は未だによくわかってない。
適当に濁して誤魔化すとオスカーの「いつもの」の名物他人丼に見せ掛けた親子丼を彼の席に出す。


「改めて思うが戦闘が出来ずに奉仕がメインの聖隸なんて初めて見たぞ」

「…………聖隸にも意思はあるからね」

「いや聖隸はモノだ。…………君は違うみたいだがな。ランクが高い故に主人が制御しきれてないのだろうな」

「ううううん……もう今はそれでいいよ」

割り切っているのであろう。優しい彼は「そう思うことで正義を執行している」
だから私は半ば諦めながらも毎回否定はするけど彼の考えが変わることは無いだろう。

ピークの時間は終わったのでしばらくオスカーと話していると出された親子丼をペロリと平らげた彼はそういえば、と話題を振る。


「姉上がこちらの地に様子を見に来てくれるそうだ。もし見かけたら無礼のないようにな」

「オスカーのお姉さん?」

きっと美人なんだろうな、と返すと「当然だろう」とまたもドヤ顔された。

「勿論姉上は見た目だけでなく中身も聖女のような方だ」

「小さい頃からの自慢のお姉さんって言ってたもんね」

「ああそうだ。この土地は熱帯地ということもあって虫が多いから姉上が嫌がらないか心配だな……」

「オスカーは虫平気なの?」

「虫が嫌いな男なんて一部を除いていないさ。彼らはロマンだ」

「出たロマン…………」


やっぱりよく分からないなぁ栗と何が違うんだ。と思いながらオスカーが完食したお皿を片付けていく。
すると虫といえば……と彼の姉上の話が始まった。結構いつもの事なので黙って聞いていく。彼は聖寮でも上の立場だ。こうして聞いてくれる人が居ないのだろう。


「昔庭の木に登って虫を取ろうとした時があってな。木から落ちてその時打ち所が悪かったみたいで記憶も一部飛んでしまったんだ。姉上は大層心配してくれてそれ以来虫を捕まえるために木に登ることは無くなったな」

「意外とやんちゃだったんだね……ん?記憶が一部飛んじゃったってなんで?」


「強く頭を打ったことが原因と言われたな。一部とはいえ姉上と遊んだ大切な日々の記憶を失って思い出せない事に涙した日もあった」


「……大切な記憶なのに無くしちゃうの?」



大切な記憶なのに、無くなる。その言葉に胸がいたんだ。
私のなくした記憶はまだ完全にの戻ってないからだ。

オスカーは「大切な記憶だからこそだ」と言葉を続けた。

「大切な記憶は頭の中で保管場所すら違うそうだ。だから、忘れてしまった場合思い出すのが大変らしい」

「保管場所が違う………」




私が"その人"の事を思い出せないのは、とても大切に思ってるから……
何故か頬が熱くなるのを感じてサッと隠す。
なんで嬉しくないのに嬉しいと思ってしまったんだろうか?


「受け売りだけどな。そう言う一説もある」

「それも姉上さんから?」

「そうだな。それも大切な思い出だ」

「……思い出は思い出せたの?」

「ああ。姉上とすごしていくうちに少しづつ思い出せた。なくなった記憶というのは少しづつ周りのものや人に感化されて戻っていくものだそうだ」

「ものや人に感化されて……」

照れながら微笑むオスカーにやっぱり彼は聖寮の中でも「らしくない」な。と私もいつか取り戻せるといいなと改めて思った。




🌻



渓谷で珍しい刀を求めていた盗賊を倒した後刀狩りやら一等退魔士のシグレやらそしてイズルトに向かう道中船員が壊賊病にかかるという呪いフルスロットルで一向にイズルトに迎えないまま1週間近くたっていた。


現在は壊賊病の薬として唯一効果のあるサレトーマの花を探している最中だった。
その最中クワガタともカブトムシとも言える虫の業魔を倒した後ライフィセットがその虫を気に入り連れて帰ったのはいいがカブトムシかクワガタかアイゼンとロクロウの口論は続いていた。


「ぜっったいクワガタだ。リアが見てもそう言うと思うぞ」

「残念だなエリアスはカブトムシ派だ」

ドヤ顔でそう言いきったアイゼンにベルベットが「どっちでもいいわよ……」と呆れながらため息をついた。


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