Helianthus Annuus | ナノ
イズルトへ [ 113/156 ]


ベルベットとエレノアの決闘はベルベットが勝利を納めた。
業魔に降るくらいならば、と自害しようとしたエレノアを彼女の中で眠っていたライフィセットが止めて、それはこと無きことを得たが、力の強い聖隷との契約の代償か、エレノアはライフィセットが目覚めるのと同時に高熱をだして倒れてしまった。

足でまといを連れて未知の土地を探索するのは危険だ、というのとエリアスの捜索を続ける目的で一先ず遺跡の中で一晩を過ごす事になった一行は各々休息を取っていた。



アイゼンは倒れたエレノアを見張るように少し離れた位置で休息を取っている。それを見かけてベルベットが声をかけた。



「エリアスは見つかったわけ?」

「いや……一通り見てきたが恐らくここにはいないだろう」

「分かるの?」

「アイツはアメノチの加護がある種族だ。恐らくウマシアではなくアメノチの縁のある地脈の土地に飛ばされた可能性が高い」

「なるほどね……なら、合流は当分先になるわよ」


ベルベットは冷たくそう言い放つとアイゼンもそれに頷く。


「……それで構わん。アメノチの地脈があるのは主にサウスガンド領だろう。……そこに寄る事があればでいい」


「……ならいい」

少し、意外そうな顔をしたベルベットだがすぐに口を噤む。彼女のその表情を見てアイゼンはいつもの様にコインを弾くと倒れたエレノアの方を見る。


「……それにしても業魔に聖隷に魔女に人魚……今度は退魔士が道連れか。厄介なことになったな」

「……客観的に聞くと随分イロモノ揃いね」

「人魚なんて普通出会えるか分からないものだからな」

「エリアスもそうだけど……いや、なんでもないわ」


明日の朝には出るわよ、呆れながらもそう言って彼女はライフィセットがいる遺跡の外へ向かった。




🌻




その日の夜中。一行が眠りに着いた後目覚めたエレノアはひとり遺跡を抜け出すと聖寮との交信聖霊術によりライフィセットの保護の密命を受けた。
その任務の完遂にいかなる行動も許可する。アルトリウスの言葉に従いエレノアは頷く。
無論、アイゼンやベルベットがそれを見逃す筈もなく。影からそれを黙って聞いていた。

ベルベットに従うフリをするエレノアとエレノアの意図を知りつつ泳がせようとするベルベット達は歪さを残しながらも未知なる渓谷を共に進むことになった。




「僕はライフィセット、改めてよろしくねエレノア」

「え、ええ。こちらこそよろしくお願いします」


自身に笑顔を向ける聖霊(モノ)に若干戸惑いつつもライフィセットを受け入れるエレノアをベルベットが睨みつける。


「逃げようとしたら手足を喰いちぎる。生きてさえいれば器の役割は果たせるんだから」

「それは大丈夫です。私は貴女との決闘の前に誓約をかけました。……負けた場合相手に従うという枷によって自身の力を引き上げる術です。1度発動した誓約は自分でも解除できない……私は、あなたとの約束を守らざる得ないのです」

「ふぅん、誓約……ね……。なら早速質問に答えてもらうわよ。聖寮はカノヌシを使って何をする気なの?」

誓約の話をする際少しだけ、エレノアの視線がそれた。
ベルベットがそれに気づきながらも知らないふりをして話を続ける。この女を使って情報を聞き出せればなんでもいいのだ。と切り捨てるように。



「無論カノヌシで業魔を滅することを目的としています……方法までは知らされていません。カノヌシの祭祀は聖寮でも機密事項でメルキオル様が取り仕切ってることくらいしか……」

エレノアは嘘は言ってないだろう。先程と違って視線が泳いでない。わかりやすい人間だった。
エレノアの話を聞いてアイゼンが無言でベルベットを見る。その視線に気づいてベルベットも少し頷く。アイコンタクトで意図を汲み取ったベルベットはライフィセットが城から持って来た本を取り出す。


「……やっぱりカノヌシの正体を知るにはライフィセットのこの古文書を解読するしかなさそうね……古代語を読めるっていうマギルゥの知り合いを当たってみるしかないわね」


「アイゼン、お前は読めないのか?」

「無理だ。古代語の解読には専門の技術と膨大な知識がいる。海賊をやりながら身につくようなものじゃない。その知り合いとやらはどこにいるんだ?」

「サウスガンド領のイズルトに行けばそやつの手がかりがあるはずじゃぞ〜」


前に便りがあったのははてさていつじゃったかの〜、適当なマギルゥの言葉にライフィセットは苦笑いするが今はそれしか手がかりがない。それにサウスガンド領と聞いてアイゼンは先日から強ばっていたその表情を少し和らげた。

「なら都合がいい。エリアスも探せるかもしれないな」

「エリアス……ですか?そう言えば港にいた際もう一人女性の方がいましたよね」

「うん!僕達の仲間なんだよ」

「もしかしてその方は人魚……でしょうか?」


今はいないエリアスの正体を知っているエレノアにアイゼンの眉間のシワが寄る。「何故それを知っている」と少しドスの聞いた声で問い詰めるとエレノアは少し躊躇いながらも答えた。



「聖寮で一時期人魚の捕縛命令があったのです。その時に聞いていた名前と一緒だと思い出して」

「捕縛命令……?」

「ええ、なんでも人魚の血肉には霊応力を高めると特等退魔士の皆さんから伺っておりまして……それでよりよい聖霊を承る為にも私も捜索に加わったことがあります」


「あの部屋で見た資料にあったやつか……」

ベルベットは腕を組み、エレノアの話から繋がっていく点に納得する。あの時エリアスが倒れたのは捕まっていた時のトラウマのせいだったのだろうか、と。
ロクロウもそれに気づいた用で納得したように頷く。


「それでエリアスは聖寮のあの部屋に捕まっていたのか」

「確か、10年ほど前に捕獲したが逃げられたと風の噂で聞いたことがあります。人魚についてもそこまで知らされていないので私が知っているのはこれくらいですが……」

「……わかっていると思うがあいつに手だしをしたら容赦はしねぇ」

「……今はあなた達と行動を共にする身です。弁えています」



それはつまり、従うフリをしている間は手だしはしない、という事だろう。アイゼンは舌打ちをすると目に見えて空気が悪くなっていくのを見かねたライフィセットが慌ててアイゼンに声をかける。


「えっとサウスガンド領……だっけ?エリアスもそこにいるといいね」

「……ああ、そうだな」

「?、エリアスの事なのにアンタにしては元気ないわね」

「いや……悪い虫がついている気がしただけだ」

「虫……?」

「ああ、虫だ。……あいつはよく引き寄せるからな」

「なんで俺を見るんだ……?」
























「くっしゅん……!……またくしゃみ」

「風邪か?いや、聖霊とは風邪をひくものなのか?」

「いや、噂、されてるだけ。だと思う」




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