「貴女がお父様を殺したんです……!」
そうですか。私は忙しいのでもう行っていいですかね?私は他人事のようにルキナさんのセリフを聞いていた。
「未来を変える為には…こうするしか……!」
彼女の母親似の嫉妬の感情と殺気がむき出しで私に襲いかかるが今の彼女を見ても何も感じない。
むしろ殺されそうだというのに頭の中ではアズールさんのことばかり思い浮かべていた。それは前となんにも変わらなかった。
ああそういえばアズールさんがくれたお花が枯れかけていたな、アズールさんに料理教えてもらう約束もしたし、あっアズールさんはこの間私のテントから持って行った本返してくれてない。それとアズールさんに熊狩りの極意を伝授する予定だったのに…あとアズールさんとのお茶もまた約束してしまいましたし……あっそれにアズールさんが……アズール…さん、…………
でも変わってしまった事がひとつあった。
「セレナといると、落ち着くな」
ああほんと、邪魔だなぁ
「ルフレさん……!貴女には死んでもらいます……!」
「何をしてるんだッ!!」
ルキナさんに突きつけられた剣をただ見つめていると私の後ろから聞き慣れた声で怒号が聞こえてきた。だからと言って私はなにも思わないが。
「ルフレさんのお部屋殺風景だったからお花飾っておきましたよ!」
「あっこの本セレナが読みたかったって言ってたんですよ!借りてもいいですか?ちゃんと返しますから」
「お茶、とても楽しかったです。また行きましょうね。えっ明日?明日は……ちょっと別の人と……へへへ」
「ルフレさん、セレナが教えてくれたんだけどこの薬吐き気に効くんだって!副作用があまりないから服用しやすいんじゃないかな?」
「ルフレさん!」
「セレナ」
私の記憶では、私に微笑みかけていた筈の彼は、今ではこちらを見向きもしなくなってしまった。
「アズール。」
その名前を呼ぶのは、私じゃない。あの、あの
「こんなことをしなくても俺は信じてる!ルフレとの絆を……!なあルフレ…!」
「……ああ、憎たらしい」
「は……っ?」
「ッッ!!??ルフレさん!貴女はやっぱり今ここで……!!」
どうやらセレナさんは気が付かないうちに彼の「下手くそなナンパ」に落ちてしまっていたらしい。ストン、と気持ちがハマるのが分かると心にどす黒い感情が生まれた。
あ!そこのきみ、いつもお疲れさま。これ僕からの気持ち。受け取ってよ
クロム親子に絡まれていたのがようやく解放された帰り道、耳に馴染むアルトの声を拾った私の体は硬直した。
あそこにいるのはアズールさんだ。
女性兵士にプレゼントを渡してる。でもそれがナンパではなく純粋な行為でやっていることを私は知っているよ。
なんて、言葉にならない気持ちがモヤモヤと渦巻いた。
これ以上女の人に声を掛けている彼が見たくなかったので早足で通り過ぎようとすると前と同じく目ざとい彼はそんな私を見逃してくれなかった。
「あっ、ルフレさん!ちょうどいいところに… はい!ルフレさんにもプレゼント!町に行ったときに買った香水ですよ、匂いもキツくないし癒しの効果があるって言われてるんですよ〜」
ルフレさん「にも」その言葉がやけに突き刺さるが私はそれを聞こえないフリをして無理やり笑顔を作って受け取った。
「あ、ありがとうございます…」
「……?ルフレさん?大丈夫…?なんだか元気が無いみたいだけど……」
可愛いらしく装飾の施された香水の瓶を受け取る。前と違って中の液の色が違うことに首を傾げつつそっとその瓶を撫でる。
「この香水は……私のことを考えで買われた……んですよね?」
「はい!その人が好みそうな物をあげていますよ!それでその香水瓶見た時ルフレさんっぽいなーって思って……迷惑でしたか?」
「い、……いえ、そんなことありません。とても嬉しいですありがとうございます……」
好きな人から考えて選んでもらったというプレゼントが嬉しくないわけが無い。さすがセンスのいいプレゼントである。現金な私は「私に似合うもの」をアズールさんが選んでくれたという事がとても嬉しかった。
なんだがアズールさんの照れ屋が写ったように顔に熱が集まるのが分かったので慌てて話を反らした。
「これ何の香りなんですか?」
「勿忘草、っていうお花の香りなんですよ。ちょっと失礼しますね……」
勿忘草、?前はプルメリアだったのに。だから液の色が違うのか、……他人事のように思っているとそっと持っていた瓶を彼が持ち上げる。シュッとひと吹き私の手首に振りかけてくれた。甘さは控えめだが清潔感のある花の香りが広がり、中中好ましい匂いだった。
軍にいると女性的な所をたまに忘れてしまうのでこういった贈り物はとても嬉しかった。改めてお礼を言おうと顔を上げると、彼は
「ね?…落ち着くでしょ?」
とこう来ることは知っていたのに色気のある顔で笑って、私の心に再びクリティカルヒットさせてきた。
「っ〜〜〜〜!……そ、そそれにしても、アズールさんってけっこう気が利くのですね!!」
「えへへ。僕、仲間の笑顔を見るのが好きなんですよ!……いつもみんなに支えられてますし、お互い様ってやつですね」
…へえ…意外です。声のトーンを下げて気持ちを落ち着かせると彼は察しがいいのに私の心境がわかってないみたいで(正直助かった)、でしょう?と心做しかドヤ顔をしていた。そんな顔すら可愛いと思ってしまった私は末期です。
「ふふーんっ!惚れ直しましたか?」
「惚れ直しました!!!!!!」
「ええ!?あの、その!!…じゃ、僕はこれで失礼します、セレナの所に行かなきゃ行けませんし……あっそれ、ぜひ使ってくださいねー!!」
勿忘草の香りを纏わせてアズールさんはセレナさんの元へ翔けていった。
ストレートに言いすぎてきっと、照れてしまったんですね。
気をつけないと……
さて……、と
「…………産まれてもいない子を殺すのは……犯罪なんですかね?」
セーフなんじゃね?
そっとレベルMAXのトロンをアズールさんと楽しそうに話すツインテールのあの子に向けたが人目が多いので「今」は止めておこうとため息を吐いた。