真実を知る術を知らない
「…どういうことですかマツバさん…」
「どうもこうも『あの』ミナキ君は『あちら』の記憶がない、それだけだよ」
ミズキ…もといスイクンが去った後、ミナキもスイクンを追いかけに行き、今は焼けた塔でヒビキ君と2人になった。
「…君は、記憶だけが『ある』のか」
「…僕はヒビキです。ワカバタウン出身で相棒はチコリータ。…ですが、ミズキさんを見た瞬間全てを思い出しました。ワカバタウン出身で相棒はヒノアラシ…名前はゴールドだったってことを。」
「…そうか…」
やはりヒビキ君も『向こう側』の世界の記憶を持った数少ない人物。
僕も勿論『向こう側』の記憶がある。
だがヒビキ君と僕は決定的な差があった。
「マツバさんも…ですよね?」
「いや…、僕は幼少期、『記憶』だけでなく『意思』ごと此方に来た。…わかりやすく言うと君はヒビキ君だけどゴールド君の記憶がある。そうだろ?だけど僕は今ここにいる『僕』と『向こう側の僕』の意思はシンクロしているんだ。」
「…えっと、つまりマツバさんは『向こう側のマツバ』さんと意識が同調している…ということですか?」
「ゴールド君と違って物分かりがいいね、その通りだよ。」
ヒビキ君の用に記憶だけ『こちら側』に来る場合はそのままヒビキ君がゴールド君の記憶ある『だけ』になる。
しかし、意識ごと来るのなら『ヒビキ君』は『ゴールド君』になる。
その違いは一目瞭然だ。
ヒビキ君と彼…ゴールド君はまったく性格が違うのだから
「ベイ…」
「ああ、ごめんねベイリーフ。お前は意味がわからなくていいんだよ。…マツバさん」
「うん、わかっているジムへの挑戦だろ?」
「ベイッ」
ベイリーフの逞しい鳴き声が塔に響く。
じゃあジムへ行こうか、と焼けた塔から出ようと入り口の扉に手をかけたとき
「…マツバさん、何故ミナキさんは覚えてないのですか?」
「…彼は覚えていたよ、ミズキのこと、その証拠にこの世界のミナキ君も北風を追い求めている。」
「だけどね」
「彼、何故か『あちらの記憶』が消えちゃったんだ」
「18年前にね」
忘れた"フリ"をして,真実を見てみぬ"フリ"をしているんだよ。
僕がそう笑うとヒビキ君は「性格悪いですね」と一言呟いた。
それはミナキ君に向かっていっているんだろう?
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