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他の誰か


窓際に立ったフタバは右腕を掲げ、舞うように手の角度を変える。
キラキラと太陽の光が反射し、それが一瞬タツミの視界を埋めた。
「何やってんだ、お前」
「タツミさん!見て見て、綺麗でしょ」
自慢げに示された薬指には可愛らしい指輪が収まっている。
「もらったの!」
髪の色に合わせたのか淡い水色の石が花を形作った指輪は確かに彼女を想って選んだのだろうと感じられた。
おそらくタツミが選ぶとしても、このような指輪になる。
そう考えたところで、喉に小骨が引っ掛かったような嫌な気分に襲われた。
彼女が誰に指輪をもらおうとタツミには止める権利はないし、自分があげるなんてこともあってはならない。
大人であるタツミにとっても指輪や薬指は特別で、誰かへの指輪を考えるだけだとしても、現在想いを捧げる女神への裏切りのように感じてしまう…女神が彼を見ていないとしてもだ。
しかしモヤモヤする。
引っ掛かる。
『…誰に?』
聞かなくてもいいのに言葉にしてしまいそうで唇を噛み締めた。
幸い、浮かれた様子のフタバはタツミの不機嫌な表情など気にしていない。
そこでまた、俺のことが好きだって何度も言ったろ、と応えもしないくせに恨みがましく思ってしまう。
「よかったじゃないか」
自分勝手な嫉妬を抑え、絞り出した声にフタバは笑って答えた。
「いくらで売れるかな!」
思考が止まった。
「あ、大丈夫ですよ。好きな人以外からはもらえないって断ったら、返されても困るから売ってくれって頼まれたので」
もやもやが霧散して、代わりに怒りが込み上げる。
「返して来い」
「なんで?タツミさんには関係ないですよね?」
そう、関係ない。冷たく反論するフタバの言う通り。
「…どんなに辛くてもそいつにゃそれを受け止めなきゃならんときがあるんだ」
「ちゃんと失恋するために?」
「そんなとこだ」
嘘だ。単純にタツミが嫌なだけ。
フタバのものとして他の誰かの指輪がそこにあることが。
理性ではわかっていることが現実では理不尽な言葉で再生される。
「…じゃ返してきます。たぶんタツミさんはそう言うかなって思ってたし」
笑顔を見せると、くるりと背を向けた。
「私はいつ失恋させてもらえるのかなー」
次いで聞こえてきた言葉にタツミは何も答えられない。
「なんてね!私、まだまだそばにいたいので、失恋はタツミさんがヒバリちゃん諦めた頃でお願いします!」
再び振り返ったフタバはまだ笑顔を浮かべていた。


2013.2.21


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