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銀一巻き


薬指に、銀が一巻き。
目覚めと共に視界に入ってきたのは自分の手にある指輪だった。
小さな赤い石と透明な石が並んで埋め込まれているだけのシンプルな作りで、サイズもちょうどいいらしく、指を動かしてもずり落ちずに収まっている。
だが、記憶にない。
シズカは装飾品への興味が薄く、手元にあるのは亡くなった母の形見であるペンダントが一つだけ。
指輪とは明らかに異なる上に、自室の棚にしまいこんでいるはずだ。
そもそも、と思い出す。
眠りにつくまでは右手首の腕輪以外に何も身につけていなかった…文字通り何も。
はっとして体を起こした。
珍しく昨晩は引きとめられ、部屋に帰してもらえなかったのを思い出す。
大小の傷が刻まれたこの部屋は自室ではない。今や恋人となった男が本来の持ち主だ。
そして、見覚えのない指輪もまた、彼が元の持ち主なのだろう。
隣でうつ伏せに寝ている褐色の背中に触れる。
「寝たふりなんてずるいのね」
首筋に口付けを落とすと、ソーマの舌打ちが聞こえた。


2013.8.14


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