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銀の輪


足元に転がってきたものと、その落とし主を交互に見遣り、ソーマは眉をひそめた。
紛い物の木目の床に転がしておくには不似合いな細工を施された銀のリングは初めて見るもので、この部屋の主であり、おそらくリングの持ち主である彼女の好みとも違っていた。
「誰からだ」
問い掛ける声は己の相棒の刃と同じ冷たさを放ち、そのままシズカを引き裂く様を脳裏に描かせた。
少しでも触れたら現実になる。
あれはシズカの趣味ではない。ましてやソーマが贈ったものでも。
「先月会食があったでしょう?」
「あぁ…」
確か榊の代役として出席していたはずだ。
第一部隊の隊長ともなると面倒な役目を押し付けられるのだなと思い、実際シズカは疲れきって部屋に帰ってきていた。
「そのときの出席者の方からどうぞって。高いんでしょうね、これ」
VIPだけが集まる会食だ。
食い散らかされたこの世界の特権階級の人間に違いない。
「受け取ったのか」
「だからここにあるのよ。すぐに出撃命令が出たから話す機会もなくて」
「そうか」
ようやく足元のリングを拾い上げ、睨みつけるように見つめる。
「…シズカ、つけてやる」
「え?」
「手ェ出せ、左だ」
戸惑いのままゆるゆると後ずさるシズカとの距離を詰め、腕を取る。赤い剛健な腕輪とは逆の華奢な左。
「嫌…ソーマ、そんなことできない。しないで…貴方にしてほしくない」
腕を引き、シズカの体をぴたり自分と重ね合わせる。
「愛を込めて」
おそらく一度も口にしたことのない言葉を囁いてやると、シズカはびくりと肩を揺らした。
「愛されてるじゃねぇか、シズカ」
くっと笑いを零す。我ながら意地悪く耳に響いた。
「指輪に刻まれてる。気づかなかったか?」
「知らな…」
片腕で体を支え、残った右手でシズカの左手を探る。
親指、人差し指、中指、薬指。
意図に気づいたシズカが指を折り、握り込もうとするが、リングを指先に当てる方が早かった。
「やめて…こんな…ちがう」
「同じだ、お前が受け取った指輪だろ」
「だってこれは貴方のじゃない」
「俺でもお前でもその男でも変わらねぇ」
引き裂いてしまいたい。リングを嵌める指がわからなくなるくらいに。
「愛でも誓ってやろうか、これを贈った男みたいに」
胸に広がる感情を吸い込み、吐き出す。
「お前は離さねぇ」
押し進めた銀の輪は第二関節のあたりで止まり、それ以上進むことはなかった。


2013.2.20


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