何もない真っ白な空間の中に、幸村精市はいた。
目を閉じればそこに浮かぶのは、あの時の記憶だ。

彼、幸村精市は死んだ。事故や、事件に巻き込まれたのではない。病気で死んでしまったのだ。普段通りに起きて朝食を取り、学校に行って家にかえってくるはずだったのに。
なぜ、俺だったのだろう。

テニスをして、友達と喋って、当り障りのない毎日だったのに。


ー罰が、あたったのだろうか...


恋をすると人は変わる。俺、幸村精市も恋人がいた。恋人と言っても、甘ったるい関係ではなかったし、そもそも男同士で部活の大事な仲間だったため、恋人より友人というたち位置の方が近かった。
もちろん、何もしていないわけではない。手を繋いだり、キスをすることだってあった。

始まりは、何時だったか。確か、今年の夏だったはずだ。
彼を屋上だか校舎裏のどっちかに呼び出して。といってもそんなロマンチックではなかった。部活後に偶然二人だけだったから。

「俺、ブン太の事が好きみたい」

だから付き合ってください。
われながらロマンチックのカケラも無かっただろう。
ひとつ言わせてもらうが俺はホモなわけではない。ブン太だったから好きになったのだ。
当のブン太は、突然の事すぎて頭が混乱していたのだろう。まあ、結論から言えば付き合うことになったのでそれでよしとする。

付き合うといっても、それで何か変わることはなかった。ただ、彼との会話が増えたり、一緒に帰ったりするようになった。
付き合うようになってから、彼について色々知っていった。というか、よくあんなに甘いモノが食べてニキビとか出来ないな、と尊敬したり。まぁ言ってやらないけど。

その日も、いつも通りの日常になる筈だった。
部活帰りの時だった。ブン太は仁王や赤也たちと話をしながら歩いていて、俺は真田や柳と歩いていた。その時、謎の無重力に襲われて、最後に見たのはブン太の振り返る姿と真田の叫び声だった...

すぐに救急車で運ばれ、病院にいった。俺の症状はギランバレー症候群に酷似た病気らしい。

俺は、直ぐ治るから大丈夫だ、と笑った。仲間に心配されたくないから。
でもブン太はちゃんと気づいてくれて毎日のように病院に来てくれた。病院におすすめのケーキを持って、通ってくれた。少しの時間だけだけど、二人で喋って笑う時間が、とても好きだった。

神様は、残酷だ

「大変です!」
「急げ、はやくしろ!」

何が起きたのかわからない。
普段通り喋ってて、それで、

アレレ?

どうなったんだっけ。
よくわからなくて、凄い眠気が襲ってきたんだ

ああ、俺は死んだのか―――――――

彼は泣かなかった。
彼は理解してくれなかった。
ああ、ごめんね。

涙が溢れて止まらなくて、
赤子のように泣き喚いた彼に伝えたい
先に俺は待ってるね。
だから、笑っていてくれ。
その思いを風にのせて...

「もしも、俺に生まれてきた理由があるならさ、それはきっと幸村くんと出逢う為で。もしも俺に生まれてきた理由を与えるとするならさ、それはきっと幸村くんと笑いあうためで。もしも幸村くんの生まれてきた理由がさ、俺と出逢う為なら。もしも、幸村くんの生きる理由がさ、俺と笑い合う為なら、それは凄い奇跡だと思うんだ」



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