私にとっての赤司征十郎は完璧な人間だ。
テストではいつも主席で、運動神経もよく一年生から副主将を任されていた。
人よりも突出した才能とそれ以上の努力を重ねている彼はまさに完璧人間だ。

それに比べ私は、人より優るものは無く、何をやっても普通で平均的だった。
テストの順位は中間ぐらいで、運動神経も良いとは言えないが悪いわけでもない、そんな何の取り柄もない自分が、嫌だった。

帝光バスケ部は最強で、レギュラー陣はキセキの世代とも呼ばれている。しかも顔面偏差値も揃いも揃っていい。もちろん赤司くんもその一人だ。

そんな赤司くんは、私にとっては憧れで雲の上の存在だ。そんな存在としゃべることが出来たのは本当に偶然で運が良かった。

「隣、いいかな」

その日は、もうじきやって来るテストの勉強をするために放課後も図書室に残ってやっていた。

「う、うん」

いきなりのことだった。
きっと自分の顔は熟した林檎や茹でたタコよりも真っ赤に染まっているだろう。
チラリと横顔をうかがうと、綺麗な赤と黄色の目が映る。宝石のようで綺麗だ。
でも、その目はいつものように凛々しくなく、何処か迷いがあるようだった。

「僕の顔に何かついているかい」

赤司くんがこちらに振り返った。気づくほどジッと見ていたのだろうか。

「な、何でもないよ!た、ただ」
「ただ?」
「どこか、悲しそうだったから...」

私は何を口走っているんだ。
赤司くんはキョトンとしてこちらを見ている。検討違いなことをいって呆れているのだろうか。
ああ、失敗した。

「そうか、悲しそう、か。初めて言われたよ」
「あっ、そ、そのごめんなさい」
「いや謝らなくていいよ」

フワリと笑ってくれた。
よかった。とりあえず嫌われてはいない。

「そうだね、少し、悩んでいるかな」
「赤司くんも悩むんだね」
「僕だって人間だから悩むよ」
「私で良ければ、話を聞くよ」

本当にさっきから何をいっているんだ。
私に関係ないのに、教えるわけないだろう。

「あ、いや、別に無理に言わなくていいし、ただ少し気になっただけというか、なんと言うか、」
「気にしなくていいよ。僕も誰かに聞いてほしかったし。
実はね、仲間に間違ってると言われたんだ」
「え?」

仲間というと帝光バスケレギュラーのキセキの人達だろうか。

「一人で勝っても意味がないと言われたよ」

その顔は、どこか悲しげだった。
彼も人間なんだ。世間から何と言われようと紛れもない普通の男子中学生なのだ。

「僕は間違ってるのかな」
「そんなこと、そんなことない!」

柄にないほど大きな声で叫んでいた。
一度開いた口は中々止まりそうにならない。

「赤司くんは凄いよ!だって一年生から副主将をやっていて一軍でずっと活躍しているし、あんな強豪のトップに立って皆を纏めているんだもん!!それでも弱音を一切はかないで凄いと思うよ!それに赤司くんが試合に勝つと私も嬉しくなるんだよ。ああ、凄いなって、思うんだよ。例え勝利に執着したって赤司くんは赤司くんで、私の大好きな赤司くんに代わりないんだよ。だから、だから、そんな風に悲しんだら、私まで悲しいよ」

ポロポロと私の目からは涙が溢れていた。なんで私が泣いてるんだ。泣きたいのは彼の方だろう。

「君は、僕のために泣いてくれているんだね。初めてだよ」

彼の顔は穏やかで美しいものだ。

「ありがとう」

そういった彼は図書室から出ていった。

最後に見たあの笑顔はきっと、心からの微笑みだったのだろう。

例え君がどんなに変わっても、私を見てくれなくても、ずっと、貴方を好きでいさせてください。


titel:箱庭


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