私には幼馴染みがいる。

親しい友人はみんなこう言う。『カッコいい幼馴染みがいて羨ましい』と。
確かにカッコいいかもしれない。でもそれは見た目だけだ。
何が王子様だ。みんな表面に騙されているだけなのだ。あいつは王子様なんかよりも大魔王のほうが似合っている。
もしも何か一つ消せるなら、アイツと幼馴染みの関係を消してほしい。


*


「はじめまして。ゆきむらせいいちです」

彼と初めてあったのは幼稚園の頃だったと思う。青いフワフワな髪に真っ白な肌で、そこらの女の子よりも女の子のような可愛らしさを持っていた。それこそ私が男だったら間違いなく彼女にしたいほど。
この時は、仲良くなりたいとばかり思っていた。

いつからだっけ。
確か中学に上がった頃ぐらいだったと思う。少なくともその時までは仲は悪くなかった。
小学校の頃はよくからかわれたけど、精市はいつも守ってくれた。

「好きです」

本当に、偶然だった。
中学に上がってそんなに月日のたっていない頃、偶然にも告白現場に遭遇してしまった。
誰の?
精市の。

私はその答えを聞くのが怖くて直ぐにでも逃げ出したかった。しかし、足がすくんで動けなかった。

「ゴメン、好きな人がいるから君とは付き合えない」

それを聞いた瞬間私は走り出していた。
走って、走って、走って、今すぐにでも忘れたかった。

その日を境に私は精市と距離を置くようになった。元々中学に上がってから人も多く、精市は部活の方に集中していたから離れるのは当然で必然だったのだ。
そんな感じで2年がたち、中学生活もあと一年になっていた。そんな夏のある日、久しぶりに精市に声をかけられた。いや、久しぶりというのは語弊がある。正確に言えば、精市自身から喋りかけてきたことはあったがそれを今までかわしてきたのだ。勿論家が近所のため、近所付き合いとしてはしゃべっていたかもしれないけど、それでもできる限り避けるようにしていた。
我ながら子供だと思う。でも、そうでもしなきゃ弱い私は自分の心を、想いを守れなかったのだ。

「名前、ちょっと待ってよ」
「ゴメン急いでいるから」

今日もいつも通りの言葉を言ってその場から離れる。

「名字」

名前を呼ばれ腕を捕まれる。

「ちょっと放してよ」

振りほどこうとするが、全然ほどけない。こんなにも差が開いていたのか。

「名字、俺の顔を見て」

そういった彼の声は哀しそうだった。精市もこんな声をするのか。

「やっと、俺の事見てくれた」

フワリ、微笑んだ。
止めて、そうやって笑わないで、期待してしまう。何のために一生懸命鍵をかけたの。

「ねぇ、どうして俺の事避けてたの。 俺何か悪いことした?したならさ、謝るよ」
「別に関係ない」
「関係ある」
「ない」
「ある」
「もう、ないったらないって言ってるでしょ!」

不毛な会話を広げ、最終的に私が沸点に到着し、大声をあげてしまった。でも、私は悪くない。悪くないのだ。
そう、心に呼び掛ける。鍵をかける。

「精市、好きな人いるんでしょ」
「えっ、あ、ああ...うん」

さっきまでと違い歯切れが悪い。
ほらいるんじゃないか。

「私になんかに構ってないでその子の方に行けば」
「ちょっと待って、」
「精市モテるんだしそこらの女の子なんて選り取りみどりでしょ」
「え、いや、」
「さっさと告白してきなよ。取られちゃうよ」

精市は少し考えてから、うんわかったと言った。
泣きたいわけではないのに、目頭が熱くなった。泣いているのを見られたくなくて、もう用事もなくなったし帰ろうとした、その時だった。

「名前名字さん、俺と付き合ってください」

真っ直ぐに凛とした声で言われたそれが告白だということに気付くのに数秒時間がかかった。

「へ......ええっ!嘘でしょ、え、いすから?」
「嘘なんかじゃない。それに、俺、中学入る結構前から好きだったんだけど」

それが恋って気づいたのは中学入る直前だったけど。

わからないわからないわからない、頭の情報処理が追い付かない。つまり彼は私の事がだいぶ前から好きだったということになる。
中学一年の頃のあの告白の相手も、私だったということだ。そう理解した瞬間私の顔に熱がこもるのがわかった。
それには勘違いした恥ずかしさも含まれている。

「何で私なの」
「名字が好きだから。ねぇ、それよりも返事は?」

そんなの、ひとつに決まっている。

「お願いします...!」



これから、その先に続く明日が幸せかはわからないけど、確かに今は幸せだと、信じられるのだ。



***
きかくら


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