「ねえ、ひとり?」

今日は少し話そうと思う。俺の昔の初恋を。
10年前のあの時、僕らは、出会ったんだ。


*


ちょうどその日はテニスの練習が無くて、少し家から遠い場所に遊びに行ったんだ。昔からテニス漬けの日を送っていた。テニスが嫌いな訳てわはないけど、たまにはどこか遠い場所にも行きたくなって一人で行ったんだ。

その場所は、都会の方とは思えないほど美しい花畑だった。色とりどりの花が咲き、その奥には綺麗な湖が見える。その圧倒的な美しさに息をすることも忘れ見いっていた。
その時、一人の女の子が目に入った。俺は気になってその子に喋りかけた。

「ねぇ、ひとり?」

俺と変わらない年ぐらいの少女は、綺麗な黒髪を風になびかせこちらを振り向いた。
息を飲んだ。その少女の綺麗な黒髪と白い肌、純白とも言えそうな白いワンピースをその身に纏った少女と、美しい風景が重なりあい、ひとつの作品のように美しかったのだ。

「あなたは?」

凛とした美しい声が耳に入り、俺は現実に戻る。この会話が、俺たちの始まりだった。

どちらも花が好きとかの共通点が多かったため、すぐに仲良くなった。恋に落ちるのも早かった。と言うか俺の場合は一目惚れに近いものなんだけど。だから、そこに行くのが毎日の日課のようになっていた。

出会ってから三ヶ月ほどがたったと思う。俺たちは小さな約束をした。

「私、大きくなったら精市のお嫁さんになる!」

不意にそう言ってきた。だから俺も、

「じゃあ大きくなったら君の旦那さんになる」
「私達、大きくなったら結婚しようね」
「約束だよ?」
「うん、約束。私達二人だけの約束だよ」

今にして思えばとてもちっぽけで、子供じみた約束だと思う。嘲笑うほどちっぽけで子供じみた約束。でも、俺にとっては大きくて絶対に忘れない大切な約束。

「あっ、俺もう帰らなきゃ。じゃあね」
「うん。また明日」

そんな約束を交わしたあと、普段通りに俺は家に帰った。俺が帰るとき、後ろを振り向いてもずっとそこにいて、どこに住んでいるかもわからなかった。

翌日。俺はテニスの試合で優勝した。小さな試合だったけど、優勝したことが嬉しくて二人だけの秘密の場所に足を急いだ。

「ねえ聞いて!」

いなかった。普段ならいるはずの君が、いなかった。
小さい俺は、時間がたてば来るだろうと思い何時間か待った。でも、君は来なくて夕暮れになり、家に帰った。きっと今日は偶然これなかっただけだと思い込んで。

次の日もいった。その日は学校もテニスもお休みの日だったから、朝早くいって君が来るのを待っていた。でも君は来なくて、夕暮れになり俺は家に帰った。

その次の日も待った。さらに次の日も待った。一週間、二週間と待ったけど、君は来なかった。

どうして考えなかったんだろう。別に次も会う約束なんかしてなくて、ただあの子がいる場所に俺が通っていただけなのに。次の日も来るって言う確信なんてあるはずないのに。俺はバカ正直に次も会えるって思いこんで。

本当は、気づいてた。君が来ないことに。でも、ちっぽけな俺はそれを認めるのが怖くて逃げ込んでいた。でも、一ヶ月もたてばその逃げ口はどんどん塞がれて、現実を受け入れろって嘲笑れた気がした。

泣いて、泣いて、たくさん泣いた。もしかしたら今までのは全部夢だったのかもしれない。全部、嘘だったのかもしれない。そういう思いも浮かんできた。
彼女が普段いた場所に、ひとつだけ違う花が咲いていた。他の花に負けないほど美しく桔梗が花開いていた。


*


これが俺の初恋の物語。ちっぽけであきれるほどバカだったけど、大きくて大切な思い出。

また君に、会えることを祈って、



titel:反転コンタクト

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