甘い匂いが漂う部屋の中で、部屋の主である丸井ブン太は何もせず、ぼーぉっと窓の外を眺めていた。
青々と広がる大空を見ているわけではない。その目には何も写していなかった。

彼、丸井ブン太の生活は変わった。学校や部活をサボったりだとか、変な薬だとかに手を出したりしたわけではない。普段通りに起きて朝食を取り、学校に行って家にかえってくる。何も、変わらない普通の生活を送っている。
ただ、彼は何をしても満たされなかった。

テニスをしても、テレビを見ても、友人としゃべっても、大好きなケーキ屋のケーキを食べても、虚無な感情しか生み出さなかった。


ー彼がいない、だけなのに...


恋をすると人は変わる。彼、丸井ブン太も恋人がいた。恋人と言っても、甘ったるい関係ではなかったし、そもそも男同士で部活の大事な仲間だったため、恋人より友人というたち位置の方が近かった。
もちろん、何もしていないわけではない。手を繋いだり、キスをすることだってあった。

始まりは、何時だったか。確か、今年の夏だったはずだ。
呼び出されて、校舎の裏側とか屋上とか。そんなロマンチックな展開じゃない。部活が終わって偶然二人で残っていた時に突然言われたのだ。

「俺、ブン太の事が好きみたい」

だから付き合ってください。
本当に、何の前触れもなく言われたのだ。俺は男色ではなく、女の子の柔らかさが好きだ。うん、それは今でもそうだ。男同士での恋愛には当然抵抗もあったはずだ。
そのあとの事はよく覚えていない。突然の事すぎて頭が混乱していたのだろう。まあ、結論から言えば付き合うことになった。

付き合うといっても、それで何か変わることはなかった。ただ、彼との会話が増えたり、一緒に帰ったりするようになった。
付き合うようになってから、彼について色々知っていった。案外嫉妬深く、ふて腐れるその姿が可愛かったり、意外と寂しがり屋なところがあったりした。可愛いと言うと余計不貞腐れるが、いつも格好いい所しか見ていないので、凄く嬉しかった。

その日も、いつも通りの日常になる筈だった。
部活帰りの時だった。仁王や赤也たちと話をしながら歩いていて、ふと、後ろを振り向いたのと、真田の叫び声は同時だった。
彼が、倒れていたのだ...

すぐに救急車で運ばれ、病院にいった。彼の症状はギランバレー症候群に酷似た病気らしい。

彼は、直ぐ治るから大丈夫だ、と笑った。でも知っている。そういうときほど、怖くて寂しいことを。
出来る限り俺は傍にいようと決めた。部活の後は毎日病院におすすめのケーキを持って、通った。少しの時間だけだけど、二人で喋って笑う時間が、とても好きだった。

神様は、残酷だ

「大変です!」
「急げ、はやくしろ!」

何が起きたのかわからない。
普段通り喋ってて、それで、

それで?

どうなったんだっけ。
気づいた時には医者や看護師が集まっていて、それでみんな慌てて

彼の顔は青白くて、冷たかった―――――――

きっと時間が経てば現れるんだろう?
何食わぬ顔で戻ってくるんだろう?
病気も全て治ってテニスもやるんだろ?
高校で三連覇するんだろ?
どうして、どうしてみんなソンナ顔するの?
理解していない、理解したくない。
理解することを、放棄したんだ。


涙が溢れて止まらなくて、
赤子のように泣き喚いた。
ふく風は不思議と懐かしく、
愛しく感じた

「もしも俺が死んだとしたら、それはきっと、その意味はお前を空から見守るためだよ。それはきっと、来世で会うためだよ。それはきっと、お前と何度でも恋をするためだよ。それはきっと、悲しい事じゃないんだ。それはきっと、永遠の別れなんかじゃないんだ。だから、その時は泣かないで、悲しまないでくれ。俺はさ、凄い幸せなんだよ」



君のいない世界にはこれっぽっちの愛着も持てないのです


相互記念小説・幸ブンでした。
甘くなくてすいません!これはcpといえるのかわからないラインになってしもうた...
書き直しも受け付けます。お持ち帰りもさとだ様のみご自由に。
タイトルの花が散る夜にから、おまけの幸村視点が見れます。
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