彼女に対する想いは日々増えていくばかりで、
この感情が何なのか分からなかった
知りたくも、なかったんだ
名前の無い青春
物心ついたときから、俺の隣には彼女がいた。何時も「いーちゃん、いーちゃん」って俺の後をついてきた。
彼女は俺の言うこと全てを真に受け行動する。他の誰が何を言っても俺の言うことを優先して動く。それが不思議でたまらなかった。
俺は彼女にたいして特別な事をしたこともないし、これからもするつもりなんてない。だから聞いてみたんだ。
そしたら彼女はこう答えた。
「いーちゃんの事が好きだからだよ」
いーちゃんがいればそれでいい、と彼女は何時もと同じ笑顔で言い切った。余計わからなかった。
俺は人間を好きだ。人間とは実に愉快で愛しいものだ。しかしそれは恋なんかのようなちっぽけなものではない。『愛』だ。
人間を、俺は心のそこから愛している。一人例外を除けば。俺が世の中の全人類を愛するように、俺の親友のように首無しを愛するように、ただ彼女の愛する対象が俺だった。それだけの事だった。
彼女は俺に何を求めるわけでもなく、ただ時だけが悠然と過ぎていった。
何年もたった、確か世間で言う社会人になった頃だろう。久しぶりに彼女と再開をした。高校を卒業してからは進路が各自違う為、別れ、住んでいる場所も違った為、再開をしたのは本当に久しぶりだった。再開といっても町中で偶然なんかではなく俺の住んでいる場所に、彼女が押し掛けて来たのだ。彼女とは連絡もしてないので此処に住んでいることは知らない筈だ。それを彼女に聞いても
「愛の力だよ」
と笑ってはぐらかされた。少し引いたけれども、情報屋として生き人間を愛している俺を、他人から見たらこんな感じなのだろうから人の事をどうこういえない。彼女はあの頃と全く変わっていなくて、その事実に何故か胸が落ち着いた。
「ああ、勝手に家に押し掛けちゃってゴメンね?
別に夜這いだとかそんなんじゃないよ。ただいーちゃんに会いたかっただけ。会いたいから会いに来たんだ。
今までどうしてこなかったか?そりゃあ毎日来たら大変でしょ。私もここより離れた場所にすんでいるから来るのも一苦労なんだ。
いーちゃんは情報屋をやっているんでしょ。いろんな人に命狙われたりしないの?大丈夫?何かあったら直ぐいってね。光速よりも速く駆け付ける様にがんばるから。
ああ、後それと池袋から引っ越ししたのもシズちゃんが原因でしょ。単純な喧嘩だとシズちゃんに勝てるわけないもんね。あっ、いーちゃんが弱いってわけじゃないよ?シズちゃんが強すぎるだけだからさ。
今、女の人と住んでいるんだっけ?なんだったかなぁ。あの何とか製薬の人と。いーちゃんの恋人ってわけじゃないんだよね。でもちょっと嫉妬しちゃうなぁ。羨ましいや。
だいぶ長話になっちゃったね。じゃあこれで最後にしようか。
私、今でもいーちゃんが好きだよ。大好き、愛してる。いーちゃんがこうしろって言ったらそうするし、いーちゃんが好きなら好きになる。いーちゃんが死ぬなら私も死ぬ。それくらいまでに愛しているんだ。勿論いーちゃんが私を愛していないことは知ってるよ。でもね、それでも側に入れるだけで幸せなんだ。例え手に入らなくても貴方が幸せだったらそれでいいの。
それじゃあ、バイバイ」
彼女は笑って帰っていった。
それ以来、彼女は俺の家にやって来ることはなかった。
ああそういえば、あの卒業式の日に、同じ学校の女子生徒が一人死んじゃったんだっけ。確か名前は______
(死んだ生徒は彼女と同じ名前だった)
(目の前に現れた彼女は変わっていなかった)
(彼は、何を想っていたのだろうか)
*********
亜莉空様のイラストお礼のリクエストで、臨也夢でした。首なしは最近読んでなかったので読み直しながら書いたのですが、何か臨也のキャラが違うし暗めになってしまった...orz
書き直しや苦情、お持ち帰りは亞莉空様からだけ受け付けますす