■ 009
今回は彼女、幸村李華と“影”についてお話しよう。
幸村李華
幸村家の長女として生まれ、祖母、父、母、そして一つ上の兄を家族に持つ。
天然パーマのかかった青い髪と茶色の目は兄・精市に似ている。しかし、彼女は人目みればすぐ女だと分かるし、彼も男だとわかるだろう。身長も彼のほうが幾分と高いし、彼女は体格に女性特有の丸みを帯びているが彼はテニスをしていることもあり筋肉もしっかり着いている。
そのため、似ていても間違えられる事は少ない。
ただし、性格はその似た容姿とは異なりかけ離れていた。
兄、幸村精市は真面目でストイックな人間だろう。テニスに対する情熱は勿論、それを理由に勉学も怠らないし女性に対する態度も紳士的だ。病に伏せた時は、復活の為にキツいリハビリや復活後にはキツいメニューをさらにキキツくして一心不乱に強さを求めた。
一方で彼女、幸村李華は不真面目とまでは行かないが真面目とは言いがたい人物だ。言われればそれなりにやるが、基本は興味の無いことには見向きもせず、努力を精一杯する人間ではなかった。
他人に対する態度も、親しい人間には悪戯などもするが、他人はそっけない態度を取る。そもそも彼女に友人や親しい分類に入る人間は少なく、同年代の子は二人ぐらいしかいない。それも他校の。だがしかし、家族を除いたや、同年代じゃなくても両手で数えられるほどしかいない。
その理由は前述した通り性格の事もあるのだが、もうひとつ、兄も関わってくる。
彼女の兄はその容姿、性格などから異性にモテた。そのため、それが目的で彼女に近づいてくる人間は少なくはなかった。それが彼女にとっては憂鬱でしかなかった。だからこそ交友関係を狭めバリケードを張っている。ただ単に面倒のいうのもあるのだが。
幸村李華について今回はここまでにしておき、“影”の存在について語ろう。
影について語るにはまず怪異について知らなければならない。
『怪異』それは人とは異なる存在。分かりやすくいうなら妖怪だとかお化けだとか、そういう類いの事をいう。
怪異を信じていない人間の方が多いだろうが、事実怪異は存在するのだ。そしてそれは、自分たちの身近によくある存在である。ただ、気付いていないだけで。
そして“影”も怪異である。影と呼ぶより此方のほうが馴染み深いだろうそれを人は、ドッペルゲンガーと言う。
ドッペルゲンガー、即ちもう一人の自分である。
江戸時代の日本では影の病や影わずらいなどいわれ離魂病として扱われた。
魂が肉体と別れてしまい、そして死に至るという恐ろしい病。
“影”。その存在を一言でいうならもう一人の幸村李華であるのだ。
そしてその存在を実感したのが彼女が小学生の時だった。
そしてそこから色々と有り、今の形に落ち着いた。
こんなことを言っても普通の人は信じないだろう。言って、怪異に巻き込みたくもない。怪異に一度出会ってしまえば遭遇する確率はグンと上がる。いや、気づいていなかっただけで、初めからこうだったのかもしれないが。
だからことこの事は誰にも言わなかった。そして彼女は自分の兄のことをしっかり理解している。幸村精市はこういう類いを信じないタイプだ。だからこそ言わないようにしていたのだが、見つかってしまえば、もう言い逃れはできない。
ハァ。
幸村李華はその対処方法に頭を巡らせた。
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