■ 012

「あっ、んじゃあもうそろそろ帰りますね」

立ち上がって帰る準備を始める。
といっても、そもそも手ぶらで来ていたのだからゴミを片付けているだけなのだが。

「んじゃ、来週の土曜日お願いしますねー」

靴を持って部屋を出ていった。そういえば、コイツ窓から入って来てたんだったな。
さて、勉強を再開させるか。

『・・・・・・』

え、なんで残ってんの?
そう思っていた瞬間だった。

『おい、聞こえるか』

何処からともなく機械的な声が聞こえてくる。声のする方を見ると、影がマイクを持っていた。

「え、ちょ、お前、何でしゃべってるの?」
『貴様はバカか』

ただ疑問を聞いただけなのにこの言われようだ。

『しゃべっているんではない。このマイクを通して声を届けているのだ、影を介してな』

な、なんという無茶な設定なんだ...!?
というか、そういうのは有りなんですね。それと何故マイクを持ってたのかも気になるんですけど。

『貴様に折り入って頼みがある』
「はぁ」
『私に協力しろ』

何で当たり前の様にいっているんだ。もっと頼み方があるだろう。

『私だって好きで協力を扇いでいるわけではない。しかしコレが一番手っ取り早いのだ』
「もしかして、幸村の事か?」
『ああ、そうだ。だから私に協力しろといっているんだ』
「え、何でお前が?」

一旦、ハァ、と大きなため息を着くとしゃべり始めた。
何でため息をつかれなきゃならないんだ。

『あのなぁ、よく考えろ。アイツの兄がそんな事をするわけないだろう』
「って、ことは...」
『ああ。全て私が仕組んだものだ』

えっ、何それー。
そんな僕の心情を無視しながら話を続けている。

『兄の帰ってくる前にアイツを眠らせ、扉を開ける。着替えなどで兄は一度二階にくるからな』『そのタイミングを見計らって今のように影を操ったのだよ』『誰だって突然自分の体が動いたらビックリするからな。そうならないようちゃんと加減をして解らないギリギリを頑張ったのだ』『理由だってちゃんとある』『お前はあの兄妹についてどう思う』『私はずっと影として見てきたがな、あの二人はすれちがっているのだ』『確かに家族であるため互いに近いところにいるだろう。しかし、例え近くにいようとも心自体は離れているのだよ』『同じ地点に立っていても空間が違う。そしてその捻れに気付いていない。いや、気付いていないフリをしていると言った方が正しいか』『アイツは、李華は気づいているだろう。しかし、それを認めようとしない。認めたくないのが』『理由? そんなもの簡単だ。傷付くのが怖いから』『人間先の見えないものは不安だろう。だから新しい事をやるのに勇気がいるのだ』『恐れているんだよ、アイツは。今の今までこの状態で均衡を保っていた。それが間違いだと知りながら、な』『この均衡を壊したらどうなるのか。もしも悪い方に転んだら、そんなマイナスなことばっかり考えているんだ』『だからアイツはこの歪んだ間違いだらけの均衡を保つんだ』『兄のほうか。どうだろうな、多分まだ気付いていないんじゃないか』『気付いていてもそれを自覚してなかったら意味等ないからな』『きっと今のアイツはコテでも動かん。ずっとこのままでい続ける』『もし、この均衡を終わらせようと思ったら第三者の力が必要なんだよ』『それで私はお前を選んだ』『阿良々木暦、お前をな』『頼む』

『アイツを、李華を助けてやってくれないか』

懇願する影は今にでも泣きそうな程苦しい表情を浮かべていた。

「わかっ」
「待て」

僕の言葉を忍が遮った。

「何故、コイツなのじゃ」
『?』
「とぼけたって無駄じゃ。第三者であるなら別に誰だっていいはずだろう。それに、あの小娘は我が主の妹との方が仲がよかろう」
『・・・・・・まあ、流石にそれは言われると思ってたさ』

ちょっと待て。
話についていけないのは僕だけか?
というか僕を置いて先に進まないでくれ。

『確かに正義のヒーローであるファイヤーシスターズの二人なら喜んで力を貸してくれるだろうな』

一拍置いた。

『しかし、それじゃあ駄目だ。あの二人では、役不足なんだ』
「なぜ、役不足なんじゃ。何を考えている」

キッと強く睨み付ける。

『ふん。別に変なことは考えとらん。ただ、アイツに一番近い存在が、阿良々木であった。それだけだ』

その目は嘘をついているようには見えない。多分。

「何を根拠にそれがいえる」
『根拠、か。強いて言うならば私はアイツの影と言うことだ』

ニヤリと微笑んだその顔は、自信に満ちていた。

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