■ 010

今日も普段通り妹たちに叩き起こされ、だらだらと午前を過ごし、午後からは用事もないため家で受験に向けての勉強をやっていたときだった。

「阿良々木さーん」
「何だ・・・ってうわっ...!」

呼ばれたと思い顔をあげればどアップで少女の顔が写る。
海のように深い青色の髪をなびかせ、茶色い瞳でこちらを見つめている。
どちらも引かず見つめあい、時が止まったように思える。

「いつまでやってるんじゃ」
『・・・・・・』

ゲシッと互いの相棒に蹴られ、今回の勝負は引き分けに終わった。

「いや、今回が初めてなんですけどね」

ハハッと他人事のように笑っているがお前もやっていたんだからな。むしろお前が始めたんだからな。

『・・・・・・』
「ああ、そうでしたね。本題を忘れてましたよ、うっかりうっかり」

影(特定の名前は無いらしく僕は影や小さい幸村と呼んでいる)が幸村に何か言っているが僕にはわからない。
それもそのはず。影の声は幸村にしか聞こえないのだから。
ドッペルゲンガーに会ったという話はよく有るが、実際に会って喋ってたというケースは聞いたことはない。
幸村曰く、他人と会話というよりも自分としゃべっているから独り言のようなものらしい。
余談だが前回影がしゃべっていたのは幸村視点だったからだ。決して途中から付け足した設定などではない。決っしてそうでは、ない。

「んーとですね、単刀直入にいうとですね、お兄ちゃんにばれちゃいました。影の存在」

テヘッと星が付きそうなくらい軽く言うが、コイツは事の重大さをわかっているのだろうか。

そもそも何故、怪異を人に言ってはいけないのか理解しているのだろうか。
別にいったら死ぬだとかそんなことは起きない。
怪異とは人ならざるもので、そもそも本当に存在するのかもわからない。怪談等の類いも、本当にそうとは限らない。噂が一人歩きをしてしまうのだ。
だからこそ、その存在を認知してしまえば怪異に遇いやすくなる。遇いやすくなればその分リスクは大きくなる。彼、阿良々木暦のように…

「って何勝手に変なこと言ってるんだよ!!」
「まあまあまあ、落ち着いてお茶でも飲んでくださいよ」
「ああ、ありがとう...じゃなくて!誰のせいだと思ってるんだよ!!それにここは僕の家だ!」
「えっ、そうだったんですか」
「逆に何でそうじゃないと思ったのさっ」
「だってここは阿良々木さんのご両親のお家でしょ?」

ずっと阿良々木さんが家から出ずに過ごすなら話は別ですけど、とご丁重に付け加えられた。誰がそんな屁理屈を言えと。
それよりも最初の話からずいぶんとずれている気がする。

「ほんとちゃんとしてくださいよぉ」
「十中八九お前のせいだがな」
「のった阿良々木さんも悪いでしょうに」

いや、そういわれるとそうなんだが。

「それなら五分五分でしょ」

そうやって言われるとそんな気がしてくる。
と、頭をグルグルしていたときだった、

「ふん。それよりも貴様なんぞのくだらない事につきあいきれんの」

おおっ!流石わが相棒よ!!

「いや、ちょっと今のはキモチ悪かったぞ我が主よ」

やめて!
そんな目で僕を見ないで!

「まあ阿良々木さんは置いといて。忍ちゃんがそう仰るかと思ってコチラを用意してるんですよ」

ジャンッという効果音とともに登場したのは某有名チェーンのドーナツだった。

「むっ、それは!」
「そう。今しか手に入らない商品である期間限定ドーナツと、人気ドーナツセットですよ」
「ムッ、ムムッ」
「どうです〜?阿良々木さんを貸してくだされば全部あげちゃいます」
「その話乗った」
「おい」

何勝手に決めているんだよ、と叫んでも僕は悪くないと思う。

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