受け継がれゆく想い | ナノ






「…ふざけたこと言うなよ」

久作が、3はの面々を睨みつける。

「5年の先輩達が手こずっている相手に、自分達が本気で敵うと思ってるのか?」
「だから、6年の先輩達に一緒に行ってもらおうって」
「…これだから、アホのは組は」

心底呆れたように、三郎次は溜息を吐いた。

「ただでさえ5年がいないってだけで、委員会が滞り始めてるんだ。この期に及んで一はと六年まで抜けたら、本格的にすべての委員会が止まる」
「正直、僕は、今は人手が惜しい」

左近がポツリと呟く。

「少なくとも、うちにとっては3年は主戦力だからな。僕自身、授業との関係で学園にいるわけでもないし」
「でも、伏木蔵が!」
「今年の3年生一人で、委員会維持できるのか?…三人いても仕事がたまり続けている委員会もあるって言うのに」

嘲笑うかのように言われた三郎次の言葉に、しんべえと喜三太の肩が跳ね上がる。

「図書室の棚、火薬倉庫の壺、保健室の襖、バレーボール、いつになったら修理してくれるわけ?」
「それは…」
「いつもなら、本格的に支障でる前に報告したら『支障が出る前』に直してくれてた」
「それは、富松先輩は5年生だから…」
「一昨年からそうだけど?」

確かにその通りだから、ぐうの音も出ない。

「生物だってそうだよな。動物に怪我させられる下級生も増えてる。作法のからくりは一向に減らず、寧ろ撤去されないことをいいことに増え続けてる。会計だって、決算前でもないのに徹夜する羽目になってるし、体育だって委員会の開かれる日が明らかに減ってるよな」
「たった一人だぞ。各委員会たった一人欠けただけで、こんなに委員会が滞ってるんじゃねえか」

完全に通常通り運営で来ているのは、図書と火薬くらいのものである。
その二つさえも、他の委員会が滞っていることの煽りを受けて多少の支障が生じ始めているのだ。

「まあ、体育に限っては、別に次屋先輩がいなくても成立はするけどね」

のんびりとした口調で、四郎兵衛が口を挟む。

「でも、マラソンのコース設営とかやっぱり人数いた方が効率いいし、体育が活動すれば最終的に絶対用具と保健のお世話になるから、今の用具や保健が人手不足な状態ではちょっと自粛してるんだと思う。別に、さしあたってやらないといけないことがあるわけでもないし」

一つ息を吐いて、四郎兵衛は更に続ける。

「気づいてる?作法もさ、タコ壺は減ってるんだよ。埋めてくれる委員会が今の状態だからね」
「本来、罠の撤去とか落とし穴埋めるのとかは用具の仕事じゃないけどな」
「…まあ、それは前委員長からの伝統だから…。会計もさ、あの田村先輩が徹夜しなきゃいけないって余程だよね。今は鍛錬とか殆どしてない。あそこの鍛錬も最終的に用具と保健が尻拭いだから」

そして更に一つ息を吐く。

「一昨年はさ、委員長が留守の時、確かに3年生が一人で委員会を成り立たせてたところもあるけど、それぞれ委員長がちゃんと準備してた上で留守にしてたし、そうでないときも、決して一人でやってたわけじゃなかったよ。用具の委員長がいないときは、陰で修繕道具の手入れとか、仕分けとか、結構他の3年生が手伝ってたし、塹壕とか、罠からくりの始末も作った委員会の3年生がやってた」

―要は、埋めればいいんだろ?その位なら出来るから任せて―
―先輩や後輩が作ったものは俺の責任でもあるから、出来る範囲で後始末はつけるよ―
=まあ、最終的には作に頼っちゃうけど=

「生物の委員長代理がいないとき、脱走騒動は少なかったって気付かなかったか?1年生に任せられないような本当に危ない毒虫が逃げたら、他の五人が捜してたんだ」

―…とりあえず、解毒剤はいつもので大丈夫?―
―今度からは、もうちょっと頑丈な虫籠作るよ―
=孫兵、大丈夫。その代わり、次からは気をつけて=

「保健だってさ、委員長いないのに修羅場が来たら、絶対応援が来てた」

―こう見えても、包帯を巻くのは上手いんだぞ―
―任せて、毒の特定なら出来るから―
=数馬は、数馬にしか出来ないことを=

「いつもなら、用具も保健も生物も委員長代理が留守する前にそれなりに仕事をこなして行ってくれるし、その為の準備もしてくれるこんなに滞ったりはしないけど、今回は急だったからね」
「何よりさ、お前らが考えてるよりも『手負いの獣』は、ずっと厄介だぞ」

―手負いの獣に不用意に近づけば、喰い殺されるのが落ちだから―

「その上で考えろよ、『自分達に出来ること』ってやつをさ」



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