シリーズ | ナノ

時は十月三十日。
明日にハロウィンに迎えたその日、例の如くあの六人は年長組を中心に何かを企んでいた。



「明日はハロウィンだが、」

とある隠し部屋で、年少・年中の四人は一列に並んで座していた。その正面には年長である留三郎と仙蔵がいる。
胡坐をかく年長に対して四人は正座だった。
用具三人によって敷かれた畳が随分と馴染む様はやはり元日本人といったところだろう。

「何の仮装をするか決めねばならん」

にんまりと弧を描く紅い唇が心底愉しそうに言葉を紡ぐ。
化けるなど簡単でしかない面々は、如何に仙蔵を楽しませるかを本人に迫られていた。
彼女は前世でも現世でも愉快なことには積極的に手を出す。

「先ずは藤内」
「はい」
「女装をしろ。姫君だ」
「は…え!?」

指令に意義を申し立てようとした藤内は、けれども「何故」とは言えなかった。理由なんて聞かなくても分かる。仙蔵が愉しいからだ。
分かっている。分かっている、のだが…よりにもよって大広間で、姫君姿で、女装の概念に理解がない大衆の前で女装をしようとは。
がくりと項垂れた藤内を気の毒そうに見遣る作兵衛は、労わるようにその肩に手を置いた。

「…作兵衛」
「大丈夫だ、俺が守ってやる」
「…うん。ありがと」

また思考があらぬ方向へと飛んだらしい。
至極真面目に、真剣に言ったあと、「お前綺麗だし」とか「やべぇ危ねぇ」とか「いやでも俺に守りきれるのか!?」とか何とか呟き始めた彼女は何やら変な心配をしているらしいが本当に男らしくて、例えどんな妄想に辿り着いていてもまぁ一応安心は出来た。
それに彼女のリードは何気に凄い。心配は無用だろう。

「作兵衛は良いよな…」

言ってはみたものの思考の迷路から脱け出せないでいる彼女は例年の如く発動した留三郎の過保護によって男装をすることが決まっている。去年もそうだった。未だ女らしい格好に少しだけだが抵抗のある身としては実に嬉しいことだろう。
いよいよ青褪めている親友をいっそ羨望の眼差しで見遣って、溜息を吐いた藤内は「予習しなきゃ」と腹を括った。
先輩兼姉に逆らえないのは彼…というか一人を除く作法委員にとっては当然の事実なのである。

「私は白無垢。留三郎、お前は相手役だ」
「…遂にか」

苦笑する留三郎は前回までの二回でもうすっかり慣れてしまっていた。なので例え婚儀ごっこだとしても軽く受け入れるだけである。
因みに前回はサキュバスにヴァンパイア、前々回は九尾の狐に天狗だ。去年、悪ふざけの範疇だと思い込んでいるらしいヴォルデモートの前身トム・M・リドルに仮装しようとしたのを留三郎と作兵衛と藤内が必死で止めたのは三人の記憶に新しい。
そして当然のように仙蔵はその美しさからそれはそれは似合い、熱狂的なファンばかりか悪質なストーカーまで増えたのはさて置き。

「平太、お前は…」
「………」
「…まぁ、良いだろう」

暗色のそれはボロボロで煤けており、所々且つ人目につく場所には恐怖心を煽るかのような血飛沫の痕。ゴーストに仮装するらしい。
さっと掲げられたそれに、珍しくも仙蔵は譲歩した。
洒落にならない程にぴったりで、さぞかし皆を驚かすだろうと思ったからだ。

「では伝七、お前はスネイプを連れて来い」
「?分かりました」

作兵衛と同じく藤内を気の毒に思っていた伝七が小首を傾げつつも素直に部屋を出ていく。
程なくして連れて来られたセブルスは疑問符を何個も浮かべ、そして若干怯えた顔をしていた。
比較的常識人な二人に助けも求めるも片や妄想に沈み片や予習に思いを馳せている。彼はその時、絶望すら感じたとか。



一応続く。
季節感皆無とか言っちゃいけない。

11/03/25.


(4/4)