シリーズ | ナノ

何時間も図書室に籠り、やっと目的のものが載せられていた蔵書を前にして。
伝七は思わずうーんと唸り、悩んだ。

こういうのは保健の専売特許だろう。
血の一滴も流さずに人を殺めることが可能な魔法も、同じように血を見ることなく苦しめることの出来る魔法も、手段は違うが保健委員会なら魔力が無くとも出来る。
今思えばとても恐ろしい。
しかしそんな保健委員会は此処にはないし、ホグワーツの医師に託す訳にもいかない。

数分考え込み、やがて伝七は結論を出した。

保健委員会ほどじゃなくても自分達にその知識があるのだから、自分達で作ればいいじゃないか。






珍しく忌々しい四人組が突っ掛かってこない一日。
平和だった筈の時間は夕方に突然何の躊躇いもなくスリザリン寮に来たかと思えばあっという間に腕を掴まれ隠し部屋に連行した幼馴染によって終わった。
相変わらずの不気味な薄笑いを浮かべながら無言でついてきた平太は今も尚木製の何かを作っている。
助けを求めるだけ無駄で、そもそも助けを求めること自体己の矜持が許さない。

「それでだ、セブルス」
「………………何だ」

訊き返してはいけない。
理由は今まで何度も見たその表情と、全身ががんがんと訴えてくる所謂嫌な予感。
それでもセブルスは話を促した。
促してしまった。

「僕の毒の知識と君の薬の知識、併せれば作れないことはないと思うんだ」
「……いや、しかし」
「何だ。僕も君もそれだけの技量を有しているだろう」

それはそうだが…、と言葉を濁らすセブルスを、伝七の大きな瞳がじっと見据える。
今この場面で溜息を吐いても動じないだろう。というか動じなかった。

別に嫌だとか、そういう訳ではないのだ。
この幼馴染と、彼女が尊敬してやまない先輩達の、毒薬に関する知識の深さはセブルスが恐れすら抱く程のものだ。それは言い切れる。
もう法に触れているんじゃないかと、幾度彼女らに本来なら抱く必要も無い筈の絶望に近い驚愕の数々が現在進行形でセブルスを黒歴史として苛ませているのが証拠だ。
そして、その中でも特に“作法”という枠にいたらしい伝七と浦風先輩と立花先輩は毒に関して知り過ぎている。
良識も持ち合わせている故に過度の悪用はしていないというのが世の幸いだとらしくもなく思っているがそれは今重要でないからさて置き。

要は不安なのだ。
自分の薬学がそれらに通用するのか。

そんな感情を胸の奥底に留め、答えるまで外さないだろう真っ直ぐなそれに重い口を動かす。
不安など拭い去れるものではないと、何気に高頻度で付き合わされていた少年はようく理解しているのだ。

「…本気なら、仕方ない」
「当たり前だ。先輩達はセブルス以外のやつを認めるつもりなんてないぞ」


あぁ、まったく。


それでも躊躇なく望まれれば、彼女ら特有の経験からくるものなのか。
セブルスは未だに答えを確かめていない。



時系列は多分入学してから二年目か三年目。
室町での名前は、何も知らない周囲にはあだ名だと言ってる。

11/03/11.


(2/4)