シリーズ | ナノ

事の始まりは、いつもの軽口の延長戦で言われた台詞。

「お前ら付き合ってんだろ〜!」

にやにやと下卑た笑みでからかってくる団蔵に、兵子はいつものように受け流した。






珍しく全力疾走で部屋に来たかと思えば、固めのクッションを力一杯投げ付けられた。

「ぶっ!…今度は何な」
「うっさい!伝七の所為で私と伝七が付き合ってるって言われたじゃんか!!」
「はぁ?何で僕の所為…いや、誰にだ?」
「……っ団蔵に!!」

顰められていた伝七の柳眉が驚いたように上がる。
しかしすぐにまた眉間の皺を深くし、立ち上がった。

「本当に僕の所為なら謝る。ごめん」
「っ、…謝ったって、今更…!」

俯いて唇を震わす兵子の頭にぽんと手を置き、伝七は玄関へと歩き出す。
隣をすり抜けた幼馴染に兵子は振り返り、靴を履く背中に「…何処いくわけ」とぶっきらぼうに呟いた。
告げられた行き先に、それ以上何も言わなかった。








コンコンコンコン、四つのノック。
こんな時に何だ、と全員の心中が一致する。
今は決算前の一番重要な時期だ。ノックに気を取られた瞬間でさえ計算する手が止まることは無い。
しかし無視をするのは礼儀に反する。
仕方なく文次郎が「入れ」と促すと、姿を現したのは生徒会の天敵・風紀委員会に所属している黒門伝七だった。

「失礼します。加藤はいますか」
「俺?」

団蔵がまさかの名指しに目を丸くする。
伝七は声の方へ視線を流した。
途中、目が合った咲智が固まったが、伝七はそれに気付かない。

「何か用?」

出来れば手短に、と、委員長からの見えぬ威圧に若干身を縮こませながら言う団蔵へつかつかと靴音高く近づく。
そして目の前で止まったかと思うと、右腕を振り上げ、団蔵の左頬を思いっきり殴った。
椅子と団蔵が倒れる音が、静かな生徒会室に響き渡る。

『!?』
「ってえ…何すんだよ伝七!」
「それはこっちの台詞だ、駄馬」

ギッ、と、風紀委員にあるまじき目付きの悪さで睥睨する伝七に団蔵はぽかんと口を開ける。

「加藤、お前、兵子に僕と兵子が付き合ってると言ったらしいな」
「は?…あぁ、言ったけど…何だよ、ホントのことだろ?」
「言っとくが僕らは付き合ってない」
「うっそだぁ…」
「本当だ」
「あやし、って違う、だからって何で殴んだよ!」
「大切な幼馴染を泣かせたんだ、それくらい当然だろう!」
「は?泣い…え?」

あまりに潔い即答っぷりに冷やかす隙も無く、団蔵は寧ろそれよりも兵子が泣いたという事実に混乱し出した。

「大体、僕にはちゃんと好きな子がいるんだ。兵子も好きな男がいる。今後一切ふざけた事を吐かすな」

風紀委員独特の氷点下の眼差しで再度団蔵を見下ろし、反論を許さず踵を返す。

「お騒がせしてすみません。失礼しました」

最後に団蔵以外の生徒会員達に礼儀正しく頭を下げて、不機嫌オーラ全開なまま伝七は去っていった。
ぱたん、と扉が閉まる。


「団蔵」

びくっと姿勢を正した。
鬼の委員長は団蔵の眼を真っ直ぐに見据えてくる。

「あの風紀に此処に私情を持ち込ますような事はするな」

文次郎の言葉に、腑に落ちない表情をしたものの、団蔵は頷いた。
そんな二人に話は済んだと見て取り、一応帳簿付けを続けていた他の委員達も一点集中に戻る。






〜咲智side〜


『僕らは付き合ってない』

はっきりと言い切られた台詞に内心で胸を撫で下ろす。
何だ、やっぱり団蔵の憶測か。
安堵して、ふっと軽くなった心持ちで筆を進める。
けれど。

『大体、僕にはちゃんと好きな子がいるんだ』

その言葉に、全身が凍りついたような気がした。
ペンを持つ手が知らず震える。



つづ、く…?というか完成出来るのかな…。
伝七を男前にしすぎた。あれ、もっと兵子に振り回されるヘタレな予定だったのに…。
あと伝七受けが好物とか言っといて第一作が伝左♀でなんか嘘吐きになった気分…。
や、でも伝左♀は「現パロでの伝左♀」だけなので!室町や他パロや伝七♀だったら全部伝七受けですよ!
一応設定。
現パロで、最終的には伝左♀・団兵♀になる伝(一途)→←(健気)左♀&団(めっちゃ甘やかしたい反面意地悪したくなる)→←(ツンツンデレ)兵♀で、伝七と兵♀が幼馴染な話。
兵♀の名前は兵子(へいこ)、左吉♀は咲智(さち)。兵子のネーミングは…正直すみません。

11/05/15.


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