シリーズ | ナノ

昼休み。
昼食を取る生徒でがやがやと騒がしい3-2の教室が、一瞬だけ静まり返った。
それは開け放たれた後ろ側の戸口から声が上がったからである。

「失礼しまーす、作兵衛先輩いらっしゃいますかー?」
「あ?」

呼ばれた作兵衛が振り返れば、軽く頭を下げる長い黒髪の美少女が一人。

「お、きりじゃないか。こっちに来るなんて珍しいな!」
「ちわっす先輩方」
「んー」
「よぉ。何だ?」

来い来いと左門に手招きされて三人の席に近寄ったきりは、作兵衛の問いに顔の前で両手を合わせて答えた。

「このあと図書室来れませんか?棚がガタガタしてて修繕お願いしたいんスけど…」
「昼休み中…あと五分ぐらい掛かるが良いか?」
「勿論っス」

作兵衛の仕事の速さを知っているからこそ充分だと頷いて、ふと三人の弁当を覗く。
そしてその四角形の半分をぎっしりと彩る食の数々に目を見開いた。

「うわ、弁当超美味そう」
「作の手作りだ!美味いぞ!」
「料理も出来るんスか。作兵衛先輩は一体何目指してんです?スーパー主夫?」
「んだそりゃ。つかきりは昼飯食ったのか?」
「食べましたよ〜」
「早いな!まだ昼始まって五分くらいなのに」
「…まさかまたサラダだけとかじゃねえだろうな」
「えっ?…まっさかー」

作兵衛の低い問い掛けを受けるや否やあからさまに明後日を見遣ったきり。
いっそ清々しいそれに左門がにかっと笑う。

「棒読みだな!」
「きり…おめぇ…」
「やだなぁ先輩、だぁいじょうぶですって!おれ元々少食ですし?」
「アルバイト色々やってんだろ、ちゃんと食わねぇとそのうち倒れんぞ」
「それにもっと太った方がいい!見てて怖いぞ!」
「…褒め言葉として受け取っときます。あと作兵衛先輩、土井先生と同じこと言ってますよ」
「それだけ危なっかしいんだよ」
「え〜」
「というか、女の子はぷにぷにしてた方が色々と―――

ゴンッ

ぐっ!」
「バカ言ってんじゃねえよ馬鹿之介!」
「流石に失礼だぞ!」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「悪ぃな、今の聞かなかったことにしといて貰えるか?」
「あ、いや、気にしてないんで…でも貰っときます。つか今のすっげぇ痛そう…」

作兵衛に殴られた場所を抱えて突っ伏す、痛さのあまり声も出ないらしい三之助の様子に、引き攣り笑いを浮かべるきり。
そんな彼女に作兵衛はフルーツの入ったパックを差し出した。

「ん」
「へ?」
「好きなのやる」
「タダで!?」
「おう」
「んじゃ遠慮なくゴチになりまーっす」

きりは笑顔で大粒の苺を摘んで食べた。
相変わらず貰うことに対して躊躇わないな。しかし取るの一つだけなのは遠慮なのか。
と思う間もなく続くように三之助の手が伸びる。

「俺もー」
「一緒のだろうが阿呆!あっばか取るんじゃねえ!」

ぎゃあぎゃあと攻防を始めた作兵衛と三之助をさっぱりとスルーしつつ、左門はきりを見上げた。

「今日当番なのか?」
「いいえー今日はあやっス。おれは言伝頼まれただけなんで」
「そうか。いつもの二人はどうした?」
「乱太郎は委員会でしんべヱは彼女に呼び出されてます。だから暇なんスよ〜」
「ん?お前空き時間は内職やってなかったか?」

三之助をシメ終わった作兵衛が訝しげに眉を顰めた。
途端にきりが膨れっ面になる。
もしかしなくともまずいことを聞いてしまったか。
慌てて引こうとする前に、きりは唇を尖らせて呟いた。

「土井先生達に没収されました」
「…それは何でまた」

きりの小遣い稼ぎは、好きでやっている趣味のようなものだと他ならぬ土井先生達も判っている筈だ。
流石に驚いたように微かだが片目を見開いた三之助が聞けば、曰く。

「『たまには一日中身体を休めなさい』って」
「「「あー…」」」

三人は思わず納得してしまった。
むっとするきりには悪いが、それだけ見掛ける度に何かしらの仕事をしている彼女である。

「別に、期間内に終わらせれば報酬は貰えるんで良いんですけどー」
「具体的にどう休めばいいのか分からないのか?」
「っ、ええ、まぁ」
「それなら簡単だ!」
「え?」
「仲間に思いっきり甘えれば良い!」

満面の笑顔で宣った左門に、きりは、まさかそう言われるとは思ってもみなかったような、そんな顔をした。
そして、三人が無言で見遣る中、数秒の間を置いて、躊躇いがちにでも期待に胸を踊らすように頬が赤く染まる。

「…………や、」
「ん?」
「やっ、てみます…」
「おう!存分に甘えて心身共に休め!」
「…っはい!では先輩方、失礼しました!」

ぱたぱたと去っていったきりの後ろ姿を微笑ましい気持ちで見送り、三人はさてとと弁当に向き直った。
作兵衛はあと三分ちょいで図書室へ行かなければならないから箸の進みは食べ始めよりは早い。

「お前ら…っ」
「「「ん?」」」

そんな三人を、突如ずらりと並んだ影が囲む。
訝しんで顔を上げれば、男子生徒達が羨望と嫉妬とその他諸々を混ぜ込んだような見るに堪えない表情で口々に言い出した。

「美少女三人に飽き足らずあんな可愛い子とも仲良いのかこんちきしょおおお!!」
「堂々といちゃつきやがって…!モテない俺らへの当て付けか!?少しは配慮しろよ…!」
「オイ“ら”は付けんなオレはお前よりはモテる」
「んだと一緒だろうが!」
「つかさ、一人くらい紹介しろよ頼む!因みに俺はさっきの、きり?って子希望」
「あっ俺も俺も!俺は誰でもいい!大川学園の女子みんな可愛いし」
「ハードル高ぇよな〜」
「黒髪茶髪金髪その他カラフル、地味系から極上美女まで!幅広いから大抵の好みはいるよな!」

やいのやいのと騒ぐ飢えた犬共に、左門は容赦なくザックリと釘を突き刺した。

「言っとくが紹介は出来ん!」

ぴたりと歓談が止まった。
何故だ。
目をかっ開いて皆が左門を凝視する。

「きりは保護者父親友彼氏と強力なバリアがあるし、他の女子も殆どがそうだからな!」
「迂闊に近付くとボコボコにされるのがオチだしなー」

一見してのんびりと三之助が続き、最後の希望と言わんばかりの視線を受けた作兵衛はこう締め括った。

「因みに、言わずもがなまこ達に手ぇ出したら…分かってんな?」

鋭すぎる眼光に全員が揃って頷いたのは無理もない。



中三の三ろと中一のきりちゃん。
きりちゃんも女体化してます。乱太郎としんべヱは男のままです。
いつもは一緒に昼食をとるまこ達は委員会。
某さんにお借りした設定で、半壊した学園を直す間他校に転入している生徒達。
因みに庭球との混合だったりする。
数増えたら分けます。

11/04/16.


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