シリーズ | ナノ

渋り続けるまこに、様々な感情が窺えた筈の作兵衛の面がふっと無表情になった。
思考に沈んだのを見て取った五人が何となく沈黙すれば、長く間を置き、不意に口の端を上げる。

「いいのか、まこ」
「…なにが?」

その笑みに、いつにない底意地の悪さを感じて。ぞくりと背筋を震わせたまこの手前で、作兵衛は徐に膝を折った。
女王へ忠誠を誓う騎士のように跪き、手の甲へ恭しく口付けをする動作。

「公に、俺らをモノに出来んだぜ?」

まこの瞳がゆっくりと見開かれる。それ程までの魅惑的な言葉だった。
簡略に戯れる厳かな儀式はどうしようもなく心を揺さぶり、彼女の身体を暫く動けなくさせた。
不意に首筋でまこの姫が蠢動する。繋がったそこを伝い、作兵衛の首へ落ち着いたジュンコは胴を巻きつかせたまま、鎌首を擡げてちろりと長い舌を出した。

「…ジュンコ」

それに釣られるようにして作兵衛の後方に並び立つ四人へと視線を移せば、同意を示すように余裕たっぷりとした笑みが視界を占める。

「まこは、欲しくない?私達のこと」

答えを促すように小首を傾げ、数実は静かに微笑んだ。隣の藤内も悪戯っ子のように意味深な瞳で見つめてくる。
まこの応答を既に知っているとでも言わんばかりに三之助は普段通りの無表情で、だからか彼女の答えを待つ左門が一層期待に輝いているようにも見えた。

応えようとして、一拍。

流れるように掬われた右腕に、磨かれた大理石に、ぽたりぽたりと生温かな水滴が落ちていく。何故か、泣いていた。
驚いたのか、目を見開いた親友達が心配そうに覗き込んでくる。
咄嗟に俯かせた顔を上げて、戦慄いた唇をきつく噛んだ。
もう一度震わせ、声にならない声で。

欲しい。

黒曜石の瞳を細めて、可愛らしい満面の笑みで応えたまこへ、左門が飛び付くまで後一秒。



作兵衛を除く五人がまこの専属になった日。
まこは普段は綺麗に笑うから、可愛い笑顔は貴重。
作兵衛が気障なことしたのはまこを煽る為と、私の趣味です←

11/04/09.


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