全ての始まりは
電波系金髪男の
退屈凌ぎだった
    その2



「普通の生徒も普通の学園生活にも興味など無い!宇宙人未来人超能力者うんぬんかんぬん……とりあえず愉悦をもたらせるという奴は我の所に来るのだ、以上!」

静まり返る教室。茫然と声の主を見つめる生徒たち。「……出た」と呆れた様子で失笑を溢す隣の席の友人。
間桐雁夜も皆と同じく、前の席の金髪男が高らかに宣言した自己紹介にただ驚きと疑問を抱くしかなかった。



× × ×



2年生に進級し生徒たちが新しいクラスに振り分けられた教室で、毎年一番初めのホームルームで行われる自己紹介。1年の時と違うのは皆が皆初対面では無い場合が殆どで、昨年に引き続き友人と同じクラスになる奴がいれば、部活や委員会で顔見知りの生徒が一緒になったりと、緊張感はあまり無く和やかな雰囲気で事が進められることだ。雁夜もまた前者で、1年の時に担った図書委員会をきっかけに仲良くなった友達が、偶然にも同じクラスの隣の席にいたものだからそれはとても喜んだ。
平凡な性格と平凡な顔の平凡な雁夜は、休み時間をクラスの端っこで数人の友達と喋りたまに読書をするのが基本スタイルというテンプレート通りの、ごく普通の男子生徒であった。親友と呼べる友人がいるわけでもないが、友達がいないわけでもない。勉強はまぁそれなりには出来るし、体育は苦手だけれど走ればとりあえずビリではない。部活動は病弱であることも要因で所属していないが、図書委員として放課後を図書室でノンビリと過ごす学園生活。退屈に感じたことは無いし当たり障りの無い生活にむしろ充足感を感じるのは俺がモブ男だからかなぁと考えていると、早速新しいクラスメートである隣の席の衛宮切嗣がぼんやりした面持ちで慣れた風に声をかけてきた。

「なぁ間桐。前の席の奴、同じクラスだったか?」

「え?違う……と思う。俺は知らない」

頬杖をついた切嗣がちらりと目配せをする。雁夜の返答を聞いた切嗣は片手に握られたペロペロキャンディで空を切るようにして再び口を開いた。

「超が付くほどの有名人だよこいつ。俺は同中だからまぁ慣れたけど、1年の時はクラスで結構やらかしていたらしい」

ニヤリと口角を上げてキャンディを頬張る切嗣。雁夜が不安気に切嗣を見やるのに気を良くしたのか、にっこりと笑って雁夜の顔を覗き込んだ。

「要は関わらなければいいんだ。そうすれば間桐も僕も平凡な学園生活をより長持ちさせることが出来る」

折角同じクラスになったんだからもっと仲良くしようよと言って、切嗣は徐にポケットから取り出した新しいペロペロキャンディを雁夜に渡した。その行動が切嗣にとってどんな意味があるのかはその時の雁夜にはわかる筈も無い。ただ素直に差し出された好意を快く受け取った。切嗣にこいつと呼ばれた金髪男が一体1年の時に何をしでかしたのかは勿論気になったが、それよりも平凡で平和な学園生活という響きの方が俄然魅力的に聞こえたのだ。だから雁夜は切嗣が言った、関わらなければいいという台詞諸ともを直ぐに記憶の藻屑へと沈めてしまった。まさにそれこそが仇となり、この数分後、雁夜は平凡とはかけ離れた日常へと敷かれたレールを走り出すことになるのだった。



× × ×



日が次第に傾きだんだんと薄暗くなってきた時刻、ギルガメッシュと雁夜と綺礼は黒板を前に今後の活動方針について話し合っていた。ギルガメッシュが指定した通りにチョークで文字を書き足していく雁夜。嫌々やってますよと顔にわかりやすく表しながらそれでも言われる通りに黙々と手を動かす辺り、雁夜は既に感化され始めているのだろうかと綺礼は考える。ギルガメッシュの無茶な提案を冷静且つ的確な意見で却下する彼の能力と存在意義はまだまだ計り知れないし、否定されているにも関わらず何だか嬉しそうなギルガメッシュの心的変化は十分な観察対象だ。一体こんなモブ男を何処から連れてきたのだろうかと未だ疑問の方が勝るが、これはきっと“楽しいこと”に繋がる良いヒントになることは間違いないと綺礼は内心で深く頷いた。

「……なるほど。では先ずは部員集めをせねばならぬのだな?」

「そうだな。後3人いれば正規の部活動として生徒会に申請出来る」

雁夜の言葉にギルガメッシュが首を傾げた。

「5人おればいいのだから、後2人でよかろうが雑種」

ギルガメッシュの疑問に雁夜は言い淀む。「ああ……俺は、まぁ」ともごもご口先で呟いた後、意を決したのかパッと顔を上げた直後、雁夜の言葉を遮るようにギルガメッシュが再び口を開いた。雁夜を値踏みするような蔑みを込めた悪い表情を浮かべて。

「まさか我の誘いを無下に断ろうとするまいな?雑種。我から逃げようものなら臣下から犬へと格下げだぞ?明日から首輪を付けて四つん這いで生活させるようになるが……異論はあるか?」

「う……無い、です」

選択肢など端から無いに等しい投げ掛けに雁夜はがっくりと肩を落とし項垂れた。雁夜の小さな声を聞き取ったギルガメッシュは「物わかりが良い雑種は好いぞ雁夜!」と嬉しそうに微笑み、少し離れた所からやり取りを眺めていた綺礼も同じくうっすらとだが口許を緩めた。

「では明日から早速部員探しを始める!タイプはおっとり天然系だ。良いか雁夜、綺礼よ。全力で探すのだ!」

結局俺たちがやるんじゃん……と明日からの面倒事に溜め息を吐く雁夜と、「承知した」と短く返事をしさっさと帰り支度をする綺礼を他所に、ギルガメッシュは楽しそうに鼻歌を歌っていた。

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