全ての始まりは
電波系金髪男の
退屈凌ぎだった



雁夜が着たパーカーのフードを力任せにぐいぐいと引っ張り廊下を引き摺りながら楽しそうに鼻歌を歌うこの金髪男。まさかちょっと馬鹿な方向にアブナイ人間なのか?と疑ってしまうような、頓珍漢なことを教室で堂々と言ってのけたのが数分前だった。衆目に晒される中無理矢理教室から引き摺り出され怖じ気付きながら雁夜が発した異論の言葉は華麗に流された挙げ句、金髪男に「わざわざ我の手を煩わせおって雑種が」と罵られ、状況判断が追いつかない脳はとうとう思考そのものを放棄してしまったらしい。雁夜は、嬉々として人が疎らな旧校舎へと誘っていく金髪男の鼻歌を聞きながら、憂鬱な面持ちでされるがまま身を委ねるしかなかった。



× × ×



太陽が西に傾き始めた喉かな放課後。言峰綺礼はしんと静まった少し埃っぽい教室でとある本を手にしていた。ホログラムが一面に施された紫色の表紙には『同級生は×××がお好き』とラブホテルの看板のようにけばけばしくでかでかと書かれている。薄っぺらく本と言えるのかも定かでないそれの端っこに書かれた18禁マークに更に戸惑いつつ、綺礼はこれを自分に渡した女子学生たちを思い出す。
「言峰くん、この前何か楽しいことを教えてくれないかって言っていたでしょ?だからこれ、こっそり持ってきたのよ。絶対に楽しいから是非とも読んでみて?」
学園でナンバーワンに可愛いと称される留学生のアイリスフィール・フォン・アインツベルンとその取り巻きが言っていた“楽しいこと”が、こんなペラペラの怪しい本に秘められているのかと思うと疑問を抱いてしまうが兎にも角にも検証しないでは始まらない。仮に自分が求めていた楽しいことでは無くとも、精々今日の放課後を無駄に過ごすことにならなければいいかと、あまり期待をしないよう努めながら綺礼は早速本の表紙に手をかけた。
その時。

「部員が一人の文芸部とはここだな!」

ガラガラッと教室の引き戸が勢い良く開かれた。
驚きで呆然とする綺礼。入り口にはにんまりと悪どい笑みを浮かべる金髪赤目の男と、そいつに首根っこを摘ままれ無気力にそっぽを向いた白髪の男が西陽を背に受けながら立っている。何なんだこいつらは。何をしにきたんだこんな所へ。疑問が波のごとく押し寄せるも綺礼はそれを口にする前に、再び呆然とする羽目になる。

「お前が文芸部の言峰綺礼だな?いかにも堅物な風貌だが致し方あるまい。綺礼よ喜べ、お前を第ニ号の我の臣下にしてやる。そして今日から文芸部は名を改めSOS団とする!」

それはワハハハと気持ち良さそうに高笑いをする金髪男の、予想の右斜めを遥かにぶっ飛んだ傲慢で自分勝手な台詞によるものだった。
綺礼はなんとなく、眼球だけをそろりと動かしてもう一人の白髪頭を見てみた。彼も先程の台詞に衝撃を受けたのか、引き吊った表情を更に強張らせ金髪男を凝視していた。



× × ×



「SOS団とはつまり、世界を大いに盛り上げるギルガメッシュの団である!」

机の上に仁王立ちになってふんぞり返る金髪男、もといギルガメッシュは高々と言い放った。最後のS字はどこから来たんだよという雁夜の素朴な疑問には、「ギルガメッシュのシュであろうが」と鼻を鳴らして言ってのけた。
馬鹿だ、こいつ。
問い掛けた雁夜とそのやり取りを黙って聞いていた綺礼は、互いに顔を合わせギルガメッシュにばれないよう溜め息を吐いた。

文芸部を襲撃した後、二人の意思関係なくギルガメッシュは強引に話を進めていた。SOS団を部活として立ち上げもう少し部員を集めた後、学園中が羨むような楽しいことをするのだと彼は言った。退屈過ぎる学園生活に愉悦を探したいのだと言って楽しそうに笑うギルガメッシュ。その表情は年相応にあどけない。しかし何処と無く妙な気迫を感じるのはその時代劇を思わせるような口調によるものなのか。試しに雁夜が訊ねてみると「我は生まれ堕ちてからずっとこの喋り方だが?」とさも不思議そうに首を傾げていた。
馬鹿な上に電波だ、こいつ。
本日初対面にして早速意気投合したのか、雁夜と綺礼は再び目配せをして深く溜め息を吐いた。

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