01

2ヶ月に渡った新人研修を終えた俺と宮野は大きな旅行カバンを持ってとある建物の廊下を歩いていた。

「二人部屋なのかな、俺と宮野」

「だと良いけど…先輩と一緒だと嫌だよな、何かと気使うし」

「確かに…」

4月に入社した大江戸電鉄株式会社は社員寮制で、互いに仲良く営業部へと配属された俺達は引っ越しの為に荷物を持って早速やって来たんだけど。

「何か、学生寮みたいだな」

「うん、4階建てって言ってたから結構凄いの想像してたけど」

「ははっ、期待を見事に裏切られたな…っと、俺の名前発見」

「あれ、二人部屋じゃなかった…じゃあ俺はどこなんだろう」

すっかり宮野と二人部屋だと思い込んでいた俺はがっくりと肩を落とす。
人見知りな上にチキンな俺にやっと出来た会社での最初の友人だから嬉しかったのに…これから他の誰か知らない人と生活を共にしなくてはならないと思うと気が引けてしまい、俺ははぁっと小さな溜め息を吐いた。

「まぁ階は一緒だろうしさ、そう落ち込むなって、何かあれば連絡くれりゃ行くから」

「…ありがと、宮野」

「おう、頑張れよ」

ぽんっと肩を叩いて宮野は部屋へと入って行った。
部屋の扉にかかった名札には新人研修で見た記憶がある名前が書かれているから、たぶん同い年の新人と相部屋なんだろう。
いいな…俺もせめて同い年の奴と同じ部屋でありますように。

そう強く願って、一人になった俺は再び荷物を手に部屋探しを始めた。



* * *



「今日から新人君が入寮だって」

「へぇーってことは週末にでも歓迎会だな」

「…かったりぃ」

「毎年やってると、そりゃね」

喫煙コーナーで煙草を燻らせながら呟いた石神の言葉にそれぞれが反応を示した。
ソファーに寝転んで週刊誌を読んでいた丹波はニヤリと口角を上げると「今年は何やらせっかなー」とわくわくした様子で、それに反して堺はコーヒーを片手に下らないと眉をひそめる。

「歓迎会はどうでもいいが、まともな新人なのを期待だな」

「それは、世良みたいな?」

「違う!」

丹波の言葉を即座に否定した堺は苛立たし気に紙コップを握り潰しゴミ箱へ投げ入れる。
なんでそんなに怒るんだ、堺。
その場にいた三人は共通して同じ事を考えそして声に出来ない言葉をごくりと飲み込み、颯爽と喫煙コーナーを後にした堺の後ろ姿をただ見つめるしか無かった。
その後暫くして口を開いたのは黙ってコーヒーを飲んでいた堀田。

「そういえば、コシさんとこに新人が一人来るらしいよ」

「え!?マジで!?っつーかなんで知ってんの堀田君!」

「うわーコシさんと相部屋かぁ、そいつドンマイだな…」

「コシさんから直接聞いたんだよ、新人が一人余るから宜しくって部長に頼まれたんだって」

「部長なら言いかねないな」

コシさんは仕事をバリバリこなす頼もしい営業部の主任。
社内には男女共に慕ってる奴が結構いたりして有名人なんだけれど、如何せんとてつもなく真面目で厳しい。
だからコシさんについた新人は尽く退職していくという悲しい現実もあって、主任になった最近は社員寮も一人部屋を割り当てられやっと落着したところだったのに。

「取りあえず今日見に行って見ねぇ?コシさんの部屋」

「そうだなぁ、歓迎会の相談もあるし」

「あ、俺はパス、予定入ってるんで」

堀田の台詞に石神と丹波は訝しげに顔を上げた。
灰皿に押し付けられた煙草がじゅっと小さく音を立てる。

「受付の子と飯行くんで」

「はぁー!?何だよ抜け駆けかよ!紹介しろよ!」

「上手くいったら回して、堀田の後でいいから」

「…ガミさんマジでやりそうだからそれは駄目」

ふっと表情を緩めた堀田は紙コップを投げ捨て「せめて合コンで」と残し喫煙コーナーを去っていく。
年下の癖に何だか後ろ姿も格好良くて腹立たしい。
石神と丹波は二人目を合わせ、堀田と違い色恋沙汰がないプライベートを思いはぁっと小さく溜め息を吐いた。

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