09

風呂から上がり、濡れた頭を肩にかけたタオルで拭きながら廊下を歩いていると。
ふと目に入ったのは窓の向こうにぼんやりと光るいくつかの灯り。
そういえば社員寮の裏側って何があるんだろうと何となく気になった俺は、風呂道具を小脇に抱えたままふらりと寮を抜け出した。

社員寮の正面側は結構綺麗に舗装されているのに、裏へ抜ける道は草が生い茂っていて外灯も無い。
ここも会社の私有地だとすればなんで綺麗にしないんだろ?と当たり前の様に浮かんだ疑問を抱きながら、砂利が敷かれただけの細い道を歩き進むと。

「公園…?」

背の高い木に囲まれた砂敷の小さな公園に辿り着いた。
遊具や遊び場といったものは特に無く、角にポツンと置かれたベンチとそれをぼうっと照らす外灯が4つだけ。
寮の廊下から見えたのはこれだったんだと、その小さな公園に足を踏み入れ辺りを見渡した。
春なのにまだほんの少しだけ冷たい風が濡れた髪と火照った頬を撫でて身震いをするけれど、でも誰もいない静かな公園が何だか心地よくて。
歩き回っている時に偶然ベンチの裏側で見つけたサッカーボールを転がしながら、年期の入った冷たいベンチに腰を掛けてぼんやりと夜空を仰いだ。



――ヒューッ

いきなり一際強い風が一瞬吹いた。
あ、いけない、ぼんやりし過ぎたとハッとして立ち上がり、来た道を戻ろうと顔を向けると。
その先、視界に映ったのは先程までは無かった人影が一つ、じーっと此方を見つめていた。

「あんた、こんな時間にこんなとこで何してんの?」

「え!?あ、え、えと」

「何?」

鋭く投げ掛けられた言葉にびくりと肩を飛び上がらせ、慌てて言葉にならない言葉をモゴモゴと呟くも、相手には全く伝わっていないようで苛立たし気に首を傾げている。

(いきなり現れてびっくりしたけど、こ、この人は一体誰なんだろ…?)

半ばパニックになりながらなんとか呟いた「あの、そこの寮から、き、来ました」という俺の言葉に、暗闇の中ぼんやりと佇むその人は「ふーん」と興味が無さそうにした後、暫くしてくるりと踵を返して公園を出ていく。
去り際に「ここ、この時間は俺のテリトリーだから」と捨て台詞のようなものを置いて行ったけれど、果たして彼は一体誰だったんだろう。

(会社の人、じゃなければいいけど…)

夜中にふらふらすんなって怒られそうだしな。
と、俺もそろそろ帰ろうと持ってきた風呂道具を片手に再び立ち上がり顔を上げた先には。

「何してんだ、お前」

「た、達海部長…!」

緑色のくたびれたジャケット姿じゃない、黒いパーカーを羽織った達海部長が怪訝な表情を浮かべて立っていた。

(さ、早速会社の人に…!、それも部長!!)

うわわわ、どう言い訳しよう…!?
ん?と首を傾げ近付いてくる部長を前に、足らない脳味噌をフル回転させ妥当な台詞を紡ごうとあぁでもないこうでもないと自らと格闘して数秒。

「…う、あの、サッカーしに、です」

口を滑りでたのはまるで頓珍漢な言葉だった。

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