酸いも甘いも、全部ぜんぶ


堺さんを怒らせてしまった。
それも100%完全なる俺の過失・不注意・失態によって。
普段の俺なら堺さんを怒らせるなんていつものことじゃんってめげずに直ぐ謝りに行くんだけれど。
でも今回はそうも簡単には許してもらえないようで、ベッドの上で小さい体を更に縮こませて正座する俺の目の前には、今まで見たことが無いような不敵な笑みを浮かべて堺さんが俺を見下ろしている。
その掌には思わず顔を背けたくなる様な代物が握られていて。
俺はそれを横目に、堺さんに精一杯お許しを乞う視線を送りながら、顔を強張らせ迫り来る恐怖にただビクビクと肩を震わせていた。



* * *



遡ること、数十分前。

「んー…頭痛てー…」

ガンガンと鐘を打つように頭に響く鈍痛と眩しい程の朝日にゆっくり瞼を開けると、そこは昨夜眠りについた筈の部屋とは違う、見馴れたインテリアと大好きな匂いに満ちた堺さんの部屋だった。
あれ?
何で俺はここにいるんだ?
昨夜は確か…ガミさんと丹さんと赤崎の四人で飯食いに行ってその流れで飲みに行って、そんで。

「あれー…そんで俺どうしたんだっけ?なんとなくガミさん家に行ったような気はするんだけど…」

もやもやと霞がかった記憶は曖昧で、思い出そうと頭を捻るも途端に襲う頭痛に断念せざるを得なく、俺はそのまま堺さんが普段使用している大きめのベッドに突っ伏した。
――シャラリ。
途端に金属が重なる様な音が何処から共なく鳴る。
ん?何の音だ?
――カシャン、シャラ。
そういえば、不思議とさっきから両手が不自由な気がする…って、

「て、手錠ぉっ!?」

「起きたか馬鹿野郎」

「堺さん!」

うつ伏せに突っ伏したまま、両手の拘束のせいで顔を上げる事が出来ないから堺さんの顔は見れないけれど。
長年の経験と野生の勘で、堺さんの声に怒気が混じっているのがわかった。
…益々状況とか理由とか原因とか色々がわからない。
俺はなんで堺さん家で寝てて手錠で拘束されていて、それも堺さんを酷く怒らせてしまっているんだ?

「うー…」

「お前もしかして記憶無いとか?」

「いや!あの、えっと」

「…馬鹿な上に最低だな」

うわー…相当怒ってる、どうしよう。
そう思って脳内の記憶を手繰り寄せるもパズルのピースの様にバラバラで、相変わらず襲いかかる二日酔いから来ているんだろう頭痛のせいで呻き声しか出てこない。
と、そんな時。
ぽふっとベッドの上、俺の直ぐ横に投げ込まれたのは、堺さんのスマートフォン。
堺さんの「そいつ見て死ぬ気で思い出せ」という言葉に頷きでっかいディスプレイを覗き込むと、そこには。

「え…俺、と、ガミさん?えぇ!?なんで!?」

俺とガミさんがキス(それも、どう見ても舌が入ってる)をしている写真がでかでかと映し出されていた。
勿論、全くもって身に覚えが無い。

「チンコ弄られて喘いでる動画もある、見るか?」

「へ!?なんでッスか!?!?なんで俺とガミさんが…っつかそんなんが堺さんの携帯にっ」

「そりゃ俺が聞きてーなぁ?」

「さ、堺さん…?」

ギシっと音を立ててベッドに片足をついたであろう堺さんは、未だうつ伏せ状態の俺の耳元に不意に唇を寄せて囁いた。

「俺だけじゃ足んなかったって事なんじゃねーの?」

「!!ちがっ、」

「早く思い出せよ、何処までやったんだ?ケツに石神の入れられてよがったんだろ?」

「違うッス!そんなことしないッス!お、俺は堺さんだけで、」

「ふーん?まぁ真相はどうであれ、」

馬鹿で淫乱な飼い犬にはお仕置きは必要だよな、世良?
そう最後に耳を噛みながら甘く暗く囁いた堺さんの言葉に俺は反論も同意も出来ず、ただ呆然とその笑顔とは言えない笑みを浮かべる堺さんらしからぬ表情と冷たい瞳を見つめ返す事しか出来なかった。



* * *

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