01

「〜っ、が、ガミさん!それ以上はセクハラっすよ!」

ガミさんの肩をぐいっと押して精一杯距離を取ろうと体を離すと、「セクハラなんて酷いなー」と残念そうにも楽しそうにもとれる呑気な声が帰ってきた。

「か、からかうのもいい加減にっ…んむっ!?」

「椿にベタベタし過ぎって言ったじゃないッスか」

ガミさんに異議を唱えようと開いた口は何処からともなく現れたザキさんによって塞がれその体は俺を庇うようにガミさんとの間に割り込ませてきた。
そして力一杯に抱き寄せられた俺は今ザキさんの腕の中で。

(ざ、ザキさん近いっ!!)

ガミさんに散々弄ばれたせいか生肌が触れている所に心臓でもあるんじゃないかって程にバクバクと高鳴って、更に口を塞がれているせいで呼吸がまともに出来ない中、俺はただひたすらザキさんにこの異常な緊張が伝わりませんようにと祈るしかなかった。

「椿もあんまり油断すんなよ、ったく…ん?椿?」

「う、あう、えと」

間近で顔を覗きこまれ反射的に泳ぐ視線。
かあっと頬に熱が集まる感じがしたのは気のせいであってほしい。
距離感なんていつもふざけあっている時と何ら変わらないのに、なんで素肌同士ってだけでこんなにも恥ずかしいんだろう。

(男同士で、先輩で、チームメイトなのに、俺動揺しすぎ…)

そわそわと定まらない視線を何とかザキさんに合わせそろそろ離して貰おうと口を開きかけた瞬間。

「俺!用事思い出したから、さ、先に帰る!お前はまだここにいるよな!いや、絶対にいろ!」

ザキさんはいきなり至極慌てた様子で捲し立てるように大声を上げた。
そして俺の返事を聞く前にざばざばとプールから上がると早足で出ていってしまった。
俺を始め世良さんや宮野、丹さんや堀田さんもポカーンとザキさんが出ていった扉を見つめたまま呆気に取られ、流石のガミさんも驚いたみたいで「いきなりどうしたよ赤崎」と小さく溢した。

「あの、俺、何かまずいことしたんすかね…?」

「んー?どうだろうな?あ、でも赤崎顔赤かったぜ?」

「…?赤い?あ、もしかして俺の緊張が伝わっちゃったんじゃ」

「あー…はいはいそういう事か!わっかりやすいなー赤崎は!」

「え、え??」

何をどう納得したのかガミさんはうんうんと頷いて「可愛いとこあるんだな、赤崎にも」と言って顔を綻ばせた。
可愛いところ?ザキさんに??
ガミさんの台詞の意味がわからず俺は再び首を傾げる。
いきなり大声を出したり意味がわからないことを言ったり赤面したりといった行動は、普段のストイックなザキさんからは全く想像がつかないのは確かではあるけれど。
それがどうして『可愛い』という言葉と直結するのだろう。
ザキさんに限らず、サッカー選手には無縁だと思うのは俺だけじゃ無い筈。

(そういえば…プールに入る前もちょっとおかしかったな)

あれ…も、もしかして体調が悪かったのかな…!?
顔が赤かったのは熱があったから。
言動がちょっとおかしかったのは、熱に浮かされていて頭がちゃんと働いていなかったから。
ガミさんがザキさんを可愛いって言ったのは、体調不良のせいでいつもと違って刺々しくなかったから。
…そう考えると全てに納得が行く。

「俺、ざ、ザキさんになんて申し訳無いことを…!」

「へ?椿?」

きっとザキさんは体調不良を隠して俺達に付き合ってくれていたんだ。
でもとうとう耐えられなくなって先に帰るって…

「俺、あの!ザキさんに謝って来るッス!」

「え、謝る?謝ってどうすんだよ、これは赤崎自身の問題だろ?そっとしといてやるのが椿が出来ることだと思うけどなー」

「でも、俺にも責任があるッス!さ、散々酷いことを…」

「えー何したんだよ椿、赤崎って見た感じそういうとこナイーブそうだし、ちゃんとそこは感じ取ってやんないと」

「ウス、気をつけます!じゃあ俺早速行ってみるッス、まだ着替えてるかもしれないし」

ペコリとガミさんに頭をさげて俺は急ぎ足でプールを後にする。
世良さんにはすれ違い様に「ザキさんは俺に任せて下さい!」と伝えて置いたから、ザキさんには悪いけれど世良さん達に余計な心配をかけさせずに済む。

(いつも世話になってばかりだし、恩返しのつもりでザキさんの看病を頑張ろう!)

さっきまでのドキドキは何処へやら、俺はザキさんへの申し訳なさとしっかり看病をしようという妙な責任感に燃えながら、更衣室へと向かった。

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