後半シーズンの為のキャンプin東京の埋立地。
立っているだけでじわじわと込み上げる熱をなんとか堪えながらやっとのことで本日の練習を終えた俺は、クールダウンという名目で世良さん達と練習でも使用した競泳用プールへと向かっていた。
折角でかいプール貸し切ってるんだしどうせ後でシャワー浴びるんだったら涼しくしてからがいいだろ!という世良さんの単純明快な発案の元、ザキさんや宮野も誘って若手選手数名でやって来たって訳だ。
「いやーやっぱ貸し切りっていいよな!贅沢だし!のびのびできる!」
わーいと歓声を上げて駆けていく世良さんと戸惑いつつ着いて行く宮野達の後ろ姿を見ながら、ザキさんが「プールごときではしゃぎ過ぎだっつの…椿、あの人にガキかって言ってこいよ」と苛立し気に呟いたから、俺は苦笑いを浮かべつつ「でも貸し切りは確かに贅沢ッスよね」と返す。
「…ま、まぁお前がそう言うなら」
すると俺の言葉を聞いたザキさんは珍しく歯切れの悪い口調で口ごもった。
腕を組んだままそっぽを向いてしまったから表情は見えないけれど、ほんのりと耳が赤くなっているのは何故だろう。
不思議に思った俺がどういう意味ッスか?と聞くと、ザキさんはいきなり顔を真っ赤にさせ怒鳴って先に行ってしまった。
なんと理不尽な…と衝撃を受けつつも到底本人には言えない俺。
少ない脳を持って暫く考えを巡らせるけれどやっぱり結論は出なくて、不意に世良さんから「椿ー早く来いよー!」と名前を呼ばれたから、俺はとりあえず皆がわいわいと騒ぎ出したプールの中へと飛び込んだ。
* * *
「あらー若手らに先越されちゃったね」
「皆考えてること一緒なんだなー」
散々遊んだ俺達がプールサイドで一時休憩をしていると、のんびりした声と共にやって来たのは丹さんとガミさんと堀田さん。
水泳キャップを被っていないということはベテラン組も遊びなのかな?と内心で疑問符を浮かべると、それに答えるように堀田さんが「水中を歩くだけでも結構良いストレッチになるんだよ」と教えてくれた。
「堺さんはいないんすか?」
「今トレーニング中、後から来るって」
「マジっすか!やった!」
世良さんは嬉しそうに笑うと隣にいた俺に引っ付き喜ぶ。
「わわ!世良さんっ、くすぐったいッスよ!」
しっとりと濡れた素肌同士が触れるのに何か変な感じがしたのは俺だけなんだろうか。
擽ったさに笑みを浮かべながら世良さんの顔を見たけれどはしゃいだまま何事も無かったようにプールへと飛び込んで行ったから、きっと何も感じてはいないんだろう。
(生肌同士がくっつくのがなんか恥ずかしいからかな?)
そう首を傾げてすぐ男同士なのに俺は一体何を考えてんだ!とハッとする。
きっと日射に当たりすぎて思考回路が麻痺してるんだ、そうだきっとそう。
そうして自分自身に何度も言い聞かせ邪念を振り払う為にプールの中で頭を冷やそうと立ち上がった瞬間。
「え、あ、うわぁっ!?」
いきなり背後から伸びてきた腕に引っ張られ体勢を崩した俺は、引っ張った人物諸とも見事にプールの中へとダイブ。
大きな水飛沫を上げて二人揃って水中へと沈んだ。
「ぷはっ!な、何、するんすか!いきなり!」
「ははっ飛び込むつもりは無かったんだけどな?椿が挙動不審だったから、つい」
「が、ガミさん…っ」
ガミさんはにっこりと優しげな笑みを浮かべて「悪いな」と言いつつ、皆からはよく見えない水中で骨張った掌を不意に蠢かせた。
端から見たらガミさんの腕は俺の首に回されているからヘッドロックされている様に見えるけれど。
もう片方の手は水中でガミさんの意のままにススス…とうっすら割れた俺の腹筋の線をなぞるように擽り始める。
(まさか、わざと…?ってそんな訳無いよね)
俺と一緒にプールに落ちたのが、ガミさんの意図的な行為だなんて。
「はぁ、ガミさん何やってんの…椿大丈夫か?」
「あ、堀田さん、だ、大丈夫ッス!」
「ガミさんくっつきすぎッスよ、椿が沈む」
「離したら俺が溺れちゃうだろー?筋肉の塊なんだから俺、な?椿」
そう言って笑うガミさんの目に他意が含まれて見えるのは俺の勘違いであって欲しいけど、現実ガミさんの掌の動きは次第にエスカレートしていて、胸の突起を指の腹で擦り始めた時には羞恥と焦りで思考が停止しかけていた。
「あの、ガミさんっ」
「椿って感度良さそうだな、もっと触っていい?それとも離して欲しい?」
「は、離してほし…」
俺にだけ聞こえるような小さい声で囁かれた台詞はいつものマイペースなガミさんと違って艶っぽくて。
嫌なのに、離して欲しいのに。
なのに意識とは裏腹にじゅんっと体の奥が熱くなってきて…俺は。
→「〜っ、が、ガミさん!それ以上はセクハラっすよ!」
→「…い、嫌ッス」