03

「順調順調、さすが現代っ子は違う」

「ウス!」

「良い返事」と言って目を細め微笑むこの人が誰なのかがやっと判明した。
その名も達海猛、営業部長だった。

パソコンで打ってくれない?と達海部長の自室で渡された資料に書かれた名前と役職に一瞬背筋が凍る思いをしたけれど、得意では無いものの人並みのスピードでタイピングをして仕事をこなしていくと褒められたもんだから今は気分上々。
単純だって自分でも恥ずかしくなるけれど、部長の仕事を任されたっていう使命感と達成感で気持ちはわくわくしていた。

「俺機械苦手でさ、でも手書きは時間かかるし」

いつもは村越にやってもらってんだけど。
そう言った達海部長はニヤリと口角を上げて笑った。

「お前村越と相部屋なんだろ?」

「あ、そうッス!」

「んーまぁ厳しい奴だけど仕事は出来る奴だから、色々吸収するこったな」

「ウス!」

達海部長に激励されて更にキッと意識を高める。
村越主任との相部屋ってのをプラスに考えて色々倣えば俺もチキンから少しは成長出来るかもしれない。
そう考えを改め達海部長に「俺頑張るッス!」と言って再びパソコンに向かった俺を見て、達海部長はガシガシと少し乱暴に俺の頭を撫でた。



* * *



「椿ー終わったかーって、あれ?寝たのか?」

日がとっぷりとくれて時刻は9時を回ったところ。
椿と一緒に簡単な食事をとった後、僅かに残った仕事を片付けると言った椿を置いて席を外し数時間。
部屋に戻ってみると資料に囲まれたまま、デスクに突っ伏すようにして寝息を立てる姿があった。
未だ20歳というだけあって寝顔はあどけなく、名前を呼びながら頬を突っついてみるもむにゃむにゃ言うだけで起きる様子はまるで無い。

「さてどうすっかな…あ、村越にでも連れ帰って貰うか」

休日に仕事をさせちゃったし緊張とか不安もあっただろうからきっと疲れたんだろう。
そう考え無理矢理起こすのは止めて携帯電話で村越を呼び出す。

『…なんですか、こんな時間に』

「俺の部屋にあるお前の荷物、引き取って欲しいんだけどー」

『は?荷物?』

「そう、だから至急取りにくるようにー、以上」

言いたいことだけを言って一方的に通話を切った。
きっと村越は何なんだと文句を言いながらも必ずやって来るだろうからそれまで暫し待機。
その間に未だ規則的な呼吸を繰り返し夢の中にいる椿に少し悪戯してやろうと、デスクからソファーへと体を移動させた。
ちょっと乱暴に動かしたんだけれど全く起きる気配がない椿に自然と頬が緩む。
何したら起きるんだろ、っつーか寝ながら何か反応したりすんのかななんて、ちょっとした遊び心で鼻を摘まんだり首の辺りを擽ってみるも何の応答も無し。
何だつまんねーと思いつつ何の気も無しに椿の乳首があるあたりをワイシャツ越しに摘まんでみた。
すると。

「…ん」

僅かながら反応が返ってきた。

(乳首で反応するってどうなんだ、敏感なのか?)

もう一度試しにクリクリと弄くってみると椿は寝言の様に再び小さく声を洩らした。
…なんだかエロいな。
そもそも俺は男に興味なんて微塵も無いんだけれど不思議なもんで、椿の少年のような幼い寝顔が小さく喘ぐ姿を見て少しだけ興味が湧いたなんて…まさに男の性ってゆうの?
新しいジャンルを冒険してみたいっていう男の本能が無駄に反応してるようなそんな感覚。
しかし生憎俺はそこいらの若人とは違い何でもかんでも手出しはしない主義なんだと、邪念を振り払うように首を振った。

(椿大介、か)

今年の営業部は面白くなりそうだ。
プライベート何てものは殆ど無いに等しいこの社員寮での新生活をスタートさせる椿に、俺は励ましと歓迎の意を込めてもう一度乱暴に寝ている椿の頭を撫でた。

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