007.罰ゲーム/ETU

「はーい今日の練習は終わり!お疲れさーん」

達海監督の間延びした声と共に本日の練習は終わりETUの選手らは各々クラブハウスへと引き返すなか椿は一人絶望にうちひしがれていた。
それもそのはず。
先程まで行われていたミニゲームの様子を見ていた達海にとんでもないことを言われたからだ。

「今日のワーストプレーヤーはぁズバリ、椿君でーす」

えぇっ!?ワーストプレーヤー!?

締めの挨拶の冒頭、いきなり達海に言われた言葉に大袈裟に動揺した椿を見て、達海はこう続けた。

「ふらっふらプレーしてまるで役立たずでしたー、ので!罰ゲームを行いたいと思いますー」

呆然と固まる選手達とコーチ陣、そして顔面蒼白な椿。
罰ゲームの言葉にあわあわと慌てふためく椿の肩を抱いて達海は至極楽しそうな笑みを浮かべた。

「覚悟しとけよー?詳細はロッカールームでなー」

ニヒーと笑い手を振って先を歩いて行った監督の後ろ姿を見ながら椿は嫌な予感を馳せる。

(何か凄く悪い顔してた…俺、どど、どーしよう!?)



* * *

ロッカールームで着替えを終えた選手達の前に立つのは、悪どい表情を浮かべた達海と何故かタオルで目隠しをされた椿の姿。
呆気に取られてつっこむ気力も無いのか訝しげな顔をして見守る彼らなんてお構い無しと言わんばかりに、達海は何処からかすっと取り出したミルク味の白いアイスキャンディーを掲げた。

「それでは椿に罰ゲームをやってもらおうと思いまーす」

そう言って包装から出したアイスキャンディーをおもむろに椿の口元へ運ぶ。
ちょこんと唇に触れた冷たさに椿は大きく肩を飛び上がらせながら、けれども達海にアイスだと言い聞かされていたこともあり、おずおずと舌先でそれを舐め始める。

「んっ、あむ、はぁ」

目隠しをされているせいでアイスの場所がわからず、それでも何とか舐めようと必死になって舌を伸ばす姿は、はっきり言って、

((何か、えろい…っ!!!))

そう心の中で絶叫する世良と清川は顔を真っ赤にさせて目を背け、ジーノと石神は何を考えているのか表情一つ変えずに見つめている。
と思えば夏木と黒田と殿山は顔を青くし、杉江と堀田と緑川は呆れを通り越して同情の眼差しで見守っているようだ。そして何故か不機嫌に眉間に皺を寄せつつ頬を赤らめる堺と、一人爆笑しているのは丹波、ガブリエルは好奇の目を輝かせていた。

「あ、かんっと、む、んん」

「椿ぃー溢れてるぞー」

選手達の様々な様子を横目で観察しつつ、達海は椿の口内に入ったアイスキャンディーを出し入れ始めた。
くちくちと音を立てて椿の口内を出入りする度に唇の端からつうっと溢れる白い雫と小さな呻き声。
苦しいのか次第に頬が赤くなってきた椿の姿は、最早ただ単にアイスを舐める青年の姿からは遠く駆け離れていた。

(あいつら…面白れー)

唾を飲み込む音さえ聞こえてきそうな、そんながっつり捕食者の顔をするのは村越と赤崎。
二人とも何食わぬ顔をしているが達海にはいつ狩ろうかタイミングを見計らっている肉食動物そのものにしか見えなく、内心で小さく笑う。
そして暫くするとアイスキャンディーも無くなり、棒だけになったそれを歯で噛みながら確認した椿が安心したように声を上げた。

「か、監督、終わりました…?」

「よし、罰ゲーム終了ー」

良かったと安堵の息を吐く椿の頭をわしゃわしゃとかき混ぜて早速目隠しを取ってやると。そこには達海も驚く程のまさかの衝撃があった。

「あれ…どうしたッスか?」

未だに上気させたままの頬に合わせ涙で潤んだ瞳。
じっと自分の顔を見つめる周囲からの不思議な視線にどぎまぎしながら椿は首を傾げた。
ハッとして選手達の数名が咳払いをして何とか誤魔化そうとする様子に更に疑問符を浮かべる。
ロッカールームに満ちた何とも言えない気まずい空気を生んだ張本人である達海は、ポンッと椿の肩に手を置き慈愛と同情の色を浮かべた目で諭した後さっさと出ていってしまった。
水を打ったようにしーんと静まりかえるロッカールーム。
その張りつめた空気を打ち破ったのは、

「あれ、コシさん?どこに、」

「……」

「あれ、赤崎も?」

いつも以上に近寄りがたいオーラを放った村越が黙って部屋を出て行くと、その後からムスッと仏頂面をした赤崎が足早に追いかけるように出て行ってしまった。
二人が抜けたことでじわじわと会話が重なりロッカールームが元通りになっていくなか、やっとのことで気を抜くことが出来た若手二人が大きく息をついて顔を見合わせた。

「…二人は何であんな怒ってたんかな?」

「さぁ…俺もわからないッス」

((いや、そんなことより))

ちらっと盗み見た椿はいつもと変わらず、寧ろ会話に全くついていけない様子で一人テンパっているようだった。

「まぁ、頑張れ」

「え、キヨさん?」

「椿、どんまいな」

「え、え?世良さんも?」

全く意味を理解できていない椿は戸惑いながらもウスと小さく返事をした。
それから後日、密かに携帯ムービーで一部始終を録画していた丹波によって己の失態を知った椿が絶句したのは言うまでもない。



end



おまけ。

「言うの忘れてたけど、明日の練習で一番ダメだったヤツは椿と同じ罰ゲームなー」

「「えええっ!?!?」」

「しっかりやれよー」

ふらっとロッカールームに戻ってきた監督は又もやとんでもないことを告げる。
室内が俄にパニックになるなか世良がおずおずと「コシさんと赤崎、来たッスか?」と聞くと、少し考えた後に悪い笑みを浮かべて首を振った。
にやにやと笑いながらロッカールームを後にする達海の背中を首を傾げて見つめる世良に対して、何かを察した清川は再び顔を赤くする。
そして椿は未だ頭上に浮かんだままの疑問符を取り除けないで、一人脳内をぐるぐるさせていた。

おまけend

コッシーとザッキーは大人の事情でトイry


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