050.寒い夜も君となら/ガミキヨ

しんしんと静かに雪が舞い落ちる夜、俺は久しぶりに清川の家にやって来ていた。
普段は大抵クラブハウスから近い俺の家で過ごす事が多いんだけれど、今日は訳あってわざわざ遠い清川の方へ行くことにした。
その訳とは。

「はぁー……やっぱり日本の冬はコタツに限るなぁ」

下半身をすっぽりとコタツ布団に埋めてぬくぬくと暖を取りつつ、かごに盛られたみかんを揉む俺。
そんな姿を見て清川は呆れ笑いと共に「ガミさんおっさん臭い」と零す。
以前練習の合間に清川がコタツを導入したと言っていたから、是非体験させてくれとお願いしたのだ。
東京生まれ東京育ちの俺は今までコタツという名は知っていても、そいつが如何に暖かくどのような感覚を生み出すのかがわからなかったから。
かといってその温もりを体験するにも、フローリング敷きのオープンキッチン・ワイドリビングで尚且つなインテリアにこだわり抜いたシンプルな俺の部屋に、古き良き味のある純和風なコタツを置くのは何だか違う気がしたのだ。
そんな時、ナイスタイミングで清川がコタツを購入したと聞き、早速食いついたという訳。
そして本日、とうとう念願のコタツを実際に体験してみての感想は『あぁ〜幸せ』この一言に尽きる。

「これやばいね、俺もうずっとコタツの中で過ごせる気がする。ってか住みたい」

「住みたいって……相当気に入ったみたいッスね。ガミさんも買ったらいいんじゃないッスか?そんな高くないし」

「えーそれはやだ。俺の洗練された住空間にコタツはミスマッチだろ」

「んー、まぁガミさんの殺風景な部屋には確かに合いませんね」

「殺風景じゃねーよ、あれはわざとなの」

清川はインテリアの云々をわかってないなぁとぼやきながら剥いたみかんを口に放り込んだ。
ほんのり甘くて口いっぱいに広がる酸っぱさに、コタツの温もりで緩んだ表情が更にだらしなくなる。
エプロンを羽織って何やら作業をしていた清川はキッチンから戻るとお盆にとっくりとお猪口を2つ、そして小皿に盛り付けた料理を2品乗っけて戻ってきた。
料理の香ばしさと鼻腔をくすぐる日本酒独特の香りにテーブルに伏していた顔を上げてみると、牡蠣の炙り焼きと柚子胡椒が添えられた湯豆腐が目に入って、思わず清川の顔を見上げた。
返ってきたのは予想以上の「美味そうでしょ」とでも言いた気な清川のドヤ顔で、でも腹の虫は素直に鳴くもんだから俺はありがたくその熱燗と肴を頂くことにした。
早速清川渾身の手作り料理を一口。

「なんだこれ、めちゃくちゃ美味いな!」

「あざっす。そんな喜んでもらえると作った甲斐があったッス」

「お前は小料理屋の女将かってレベルで美味い。結婚したい」

「小料理屋の女将ってまた具体的な……それも結婚ってぶっ飛んでますね」

ひたすら箸を口元に運びながら褒めまくる俺の言葉に気を良くしたのか、空いた俺のお猪口にすかさず熱燗を注ぐ清川。
清川のその仕草も料理のレパートリーも、俺のセリフに負けず劣らずおっさん臭さ(……というか寧ろこれは人妻っぽさ)が滲み出ていると思ったが、あえて口にはしなかった。
それは俺が美味いと言う度に、照れくさそうにしながらも嬉しそうに目元を綻ばせるその表情を、少しでも沢山見ていたかったから。
だから、結婚したいというセリフが結構な本音であることもとりあえずは言及しないでおこう。
そう決めて、俺は「コタツでみかんより、コタツで熱燗だな。あぁ美味い」と、清川と二人で過ごす今日の些細な幸せを噛み締めた。

――コタツと好きな奴と美味い酒と肴。
この最強布陣に身も心もすっかり温まった、そんな雪が舞い落ちる寒い夜の話。



end.



おこたでぬくぬくするガミキヨが書きたかったんだよ^^


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