048.我が愛しのヤンデレ様/タンザキ

※赤崎がキャラ崩壊→ヤンデレ化しています、ご注意下さい。










『丹さん5W1Hで今の状況報告して』

携帯電話に表示された絵文字の無い淡々とした文字列を見て、思わず顔がひきつった。
件名:返信必至 が不気味な雰囲気を醸していて、今さっきまでの笑みが瞬く間に消え失せる。
いつの間にか数十件も溜まっていた未読メールの受信時間を見てみると見事に5分おきに届けられていて、すっかり憔悴してしまった俺の顔を見た石神が「丹さんどーしたの?」と不思議そうに聞く。
最早一種の呪いだと言わんばかりな赤崎からのメールの訳は、俺の女っ気の無さを同情したドリさんがわざわざセッティングしてくれた今日の結構ガチな合コンだろう。
最初誘いを受けた時は、後に色々と面倒なことになると予想して(予想は奇しくも見事に的中してしまった)断ろうと思ったんだけど。
どこからか話を聞き付けた宴会好きの石神が我先にと乗っかっちゃって、結局参加するハメになったという経緯でありまして。
ドリさんの心遣いを無下には出来ないし、訳もなく断ればまた心配されるだろうし…だからといって赤崎との関係(まぁつまりは行くとこまで行っちゃった関係)をぶっちゃけるなんて到底出来る筈もなく、結果的に一番無難な選択をしたまでであり。
決して赤崎とは別のちゃんとした彼女を作ろうとしたつもりじゃないし、寧ろ赤崎にきちんと説明した上で参加出来れば、こんな世にも恐ろしいメールを送られずに済んだんだ。
…でも赤崎に「合コン行ってきますごめんなさい」なんて。

『なんで返事くれないんスか?忙しいんスか?忙しいならそう一言返事下さい。っていうかそもそも俺に何も言わずに出掛けるなんておかしいでしょ?それか言えない理由があるんスか?俺に隠れてこそこそ出掛けなきゃなんない理由があるんスか?…ねぇ今どこ?どこで誰と何をしてるんスか?やましい理由が無いなら言えますよね、ねぇ、ねぇってば!!』

(い、いいい言えるわけねぇ!っつーか怖い!!)

メールの返事をしない俺に痺れを切らしたのか、完全にヤンデレスイッチが入ってしまった赤崎からのメールを見て途端にガタガタと恐怖に体を震わせると、俺の危機的状況を知らない石神は隣で「丹さん顔酷いww」と指を指して笑いやがる。
この酔っ払いが…後で憶えてろよと内心で舌を打ちつつ、とりあえず先ずは状況把握並びに解決策を見出だすため、手洗いへと席を立つことにした。
「バイバイ聡くーん」と背中にかけられる少し酔っ払った甲高い声に作り笑いで応え、俺はいそいそと男子トイレの個室に閉じ籠る。
すると丁度良く携帯電話がブルブルと震え出した。
ディスプレイに表示された名前を見て、余りの絶妙なタイミングにもしや何処かで監視されているんじゃ…なんて情けない妄想をしつつ、俺は一つ深呼吸をして通話ボタンを押した。

「も、もしもし…」

『丹さん、メール見たッスか?』

「あ、うん、悪い、今見たとこ…何かごめんな、あの、不安にさせたみたいで」

『…ウス』

電話に出た途端に言葉責めされたらどうしようかとハラハラしていたが、声を聞く限りだと赤崎はとりあえず冷静なようだ。
一先ず一難去ったところでふっと肩が軽くなり内心で大きく息を吐く。

「もうすぐ帰るから、そう心配しないで大人しく待ってろよ?」

『それは無理ッス』

ズバッと放たれた言葉に反射的にビクリと肩が飛び跳ねた。
途端にどっと押し寄せる不吉な予感に背筋を嫌な汗が伝う。

「な、なんで?」

『だって、』

『「もう来ちゃったから」』

携帯電話の向こう側から聞こえるだけの筈が、何故かサラウンドで赤崎の声が鮮明に耳に入り、疑問と違和感とが瞬く間に脳を支配する。
ドッドッドッ…と飛び出さんばかりに高く脈打つ心拍音に聴覚を煩わされながら、まさかと思いつつ個室トイレの扉を開いた。

「丹さん、迎えにきたッス」

――にっこり。
扉の向こうにいたのは、携帯電話を耳に当てたまま笑顔を浮かべた赤崎本人であり、その瞬間、俺のありとあらゆる(驚きと恐怖と不安と疑問とがぐちゃぐちゃに入り交じって、簡潔にこうだと言葉で表現し難い)感情がぶわっと溢れ出てしまい、言葉もまともに出来ずただ呆然と赤崎を見つめるしか無かった。

「丹さんに言いたいこと沢山あるけど、それより先に済ませなきゃなんないことがあるんで、そのままここで待ってて」

「え…な、に?」

「丹さんにはあんな雌豚似合わないッスよ、まぁ丹さんは最初から解ってると思うけど」

「…へ?」

「丹さんは優しいから誘いを断れ無かったんスよね?あいつらそんな丹さんの優しさにつけ込みやがって…汚ならしい魔女豚共には身分をわきまえて貰わなきゃなんないんで、俺行ってきますね」

「お、おい、何しに「ここにいて」

俺の言葉を遮って、赤崎はゾッとするような声色で言い放った。
ニコッと微笑んだその瞳が笑えていないのも、聞くに耐え難い言葉の羅列も、普段は口数が多い方ではない赤崎が早口で捲し立てるように喋るのも、もう全部が恐ろしくて。
俺はただ赤崎に言われた通り、便座に腰掛けたままぼうっと焦点の定まらない目をリノリウムの床に向けるしかなかった。
これがあれか、ヤンデレって奴か。
数ヶ月前、世良が面白いCDを見つけたと言って聞かせてくれた内容をふと思い出した。

(ヤンデレ…全然萌えねぇよ…)

トイレの外から僅かに聞こえる甲高い悲鳴に耳を塞ぎながら、俺は深く溜め息を吐いた。



end.



俺のザッキーがこんなに病んでるわけがない…はい、需要無いのはわかってます、悪ふざけです。

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