045.やっぱこんな感じ!/ETU

夕方降っていたみぞれはいつの間にか完全に雪へと変わっていて、道を行き交う人達で賑わう街をほんのり白く染め上げていた。
居酒屋の暖簾をくぐれば途端に冷たい風が吹き付け、程好くアルコールが巡りすっかり火照った体さえも寒さに震えてしまう。

「うわぁ丹さん、雨が夜更けすぎにすっかり雪へと変わったよー」

「お前は達郎か」

白い息を吐きながらへらへらと笑う石神を丹波は簡潔に一蹴して、二人はダウンジャケットを羽織った体をぎゅうっと縮めながら人混みを宛てもなく歩み始めた。
真っ暗な空から音もなく落ちてくる粉雪。
これが初雪だったか?と寒さにキーンと響くこめかみを押さえながら考えていると、隣を歩いていた石神がおもむろに口を開いた。

「椿達ってもう実家帰ったのかな?」

「椿はわかんねーけど、宮野は26日に帰るって」

「あ、じゃあまだいるな、多分」

嬉々として言葉を弾ませる隣を見やると満面の笑みを浮かべる石神が「いいこと思いついたから丹さん付き合ってね」と言って、俺の返事を待たずして携帯電話を取り出し何処かに電話をかける。
石神が言う『いいこと』というのは大抵が周囲を巻き込むものだとわかりきっている丹波は、半ば呆れつつ諦めつつも言い咎めはしない。
なんたって今日は折角のクリスマス、男二人虚しく居酒屋で食事をして終わりってのは余りにも味気ないからだ。

「よーし、人員捕獲完了」

電話を終えた石神がニヤリと口角を上げ微笑んだ。
この時点で俺は巻き込まれた被害者から、来る石神発案のイベントらしきものに乗っかり煽る要員に格上げされる。
周りから見れば単に共謀しているようにしか見えないだろうが…まぁ楽しければいいか。

「丹さん酒買って行こー」

鼻歌を歌いながら目的地に向かい再び歩き始めた石神に、「巻き込むんならそれなりに楽しませろよ」とちょっぴりクールに言いつつ、すっかりノリノリになった丹波もハモらせるように石神の鼻歌に混ざった。



* * *



「…で、ここかよ」

「お前らは一体何をしたいんだ」

「クラブハウスで」

途中で合流した村越と堺と堀田は首を傾げた。
ちょっと高級な料亭で三人でサッカー談義に花を咲かせながら食事をしていると、何の前触れもなくかかった石神からの召集。
携帯電話片手に戸惑う堀田を見てきちんと断ってやろうと堺が手を伸ばしかけた時、それにゴーサインを出したのは以外にも村越だった。
「たまには乗っかってやるのもいいだろ」と言ってぐい飲みを傾ける村越を、驚きの表情で見つめ互いに顔を合わせる堺と堀田を想像して、丹波は思わず噴き出した。

「じゃあとりあえず宮野と椿の部屋に行きますか!」

丹波と同じ様に暫く腹を抱えて笑っていた石神が堺に急かされ、それではそろそろ選手寮へ向かいましょうとそれぞれが足を踏み締めたと同時に、雪が降り積もる聖なる夜には不釣り合いなヤケに明るい声が何処からともなく飛んできた。

「堺さん…?あ、コシさん!こんな時間にどうしたッスか!?」

その後を追うように聞こえてきたのは「世良さんうるさい」という相変わらずの冷静かつ不機嫌な赤崎の声と、そしてその後ろで乾いた笑い声を溢す清川がいた。

「お前らこそ何してんの?」

「俺らはこれから椿んとこに乗り込もうかと思ってたんスよー!」

そう言って笑顔で世良が掲げたビニール袋には大量のスナック菓子と炭酸飲料。
それを見た堺の目がカッと鋭くなったのをいち早く察知した清川が「クリスマスくらいは、いいかなと、ははは」と苦笑いで無理矢理誤魔化そうとして失敗、けれども村越の「まだ若いから」という意外すぎる助太刀によってその場は何とか穏便に解決した。
偶然にも目的地が一致していたことや、互いに食べ物飲み物を持ち合わせていたこともあり、結果的にはメンバーを大幅に増やしての『石神発案の突発イベント』から変更の『若手部屋に無理矢理乱入してのクリスマスパーティー』決行となった。

ETU選手軍が深夜近くにぞろぞろと選手寮に押し掛ける現状に、皆の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
日々の練習で飽きるほど顔を合わせてんのにそれでも不思議と居心地がいいんだよなぁ、この面子とこの空気は。
そう誰もが口々に溢しながらようやっと辿り着いたのは、本日のイベントのメイン会場である宮野と椿の部屋。
丹波と世良はうっすら漏れる室内の光と声を聞きニンマリと笑みを浮かべる。
堺や清川、荷物を抱える堀田や赤崎は呆れた表情を浮かべつつ、なるべくビニール袋の音が鳴らないように静かに彼らを見守り、そして石神は村越と突入のタイミングを見計らいつつ扉に聞き耳を立てた。
狙うは会話が弾んだ後の静かになった瞬間。
その絶妙なタイミングでコシさんがいきなり部屋に乱入したらそりゃ若手はビビるだろうなと脳内で爆笑しながら、いざ突入!と勢いよく石神が扉を開けると。

「「ぎゃぁぁあああ!!!」」

予想を遥かに超えた激しい反応が返ってきた。
それも悲鳴は幾つか重なっており、室内をまじまじと見渡してみると宮野の他に上田や亀井・湯沢もいて、その場にいた全員が村越を見つめたまま呆然と立ち尽くしていた。
驚愕のあまり彼等によって投げ飛ばされたゲームコントローラーと食べかけのイチゴのショートケーキを見るに、若手達がクリスマスケーキを突っつきながらサッカーゲームをしていたのが容易に想像出来て、乱入組からは笑いが零れる。

「え、ええっ!?コシさん!?あ、ガミさんと…ええー!?!?」

「皆揃ってどうしたんスか!?」

「ぷ…お前ら、可愛いな」

「ケーキどうしたんだよ、まさか買ってきたの?今はやりのクリーミー系?」

「ガミさんそれちょっと違うと思うッス」

ケーキは食堂のおばちゃんが差し入れでくれたんスと淡々と説明する湯沢に対して、赤崎が「俺にも言えよ」と小さく呟いたのを聞いていた丹波と世良とその他全員が盛大にからかったり。
テレビ画面を見てみるとETUがバルセロナ相手に3点差を付けている事に全員で興奮したり。
そんな和気藹々とした雰囲気の中、やっと小さな異変に気が付いたのは堀田だった。

「椿がいないな」

「あ、そうだった、何か監督にケーキわけてくるって言って出ていったきりッス」

「えー!?今日も監督いんの!?」

宮野の言葉に全員騒然。
のちに呆然。
監督はクリスマスなのに仕事しているんだ…と各々が何とも言えない気持ちに苛まれ、先程とはうって変わってしんと静まってしまう。

今期のETUの大躍進はそれこそ監督の采配があってこそで、その事実は選手であるここにいる全員が一番実感していた。
監督が普段どういう仕事をどのようにしているのかは直接は見たことが無いし選手が理解する必要も無いだろうけれど、それでもクリスマスにクラブハウスに泊まってまで仕事をしている事実は変わらない。
ならばやることは一つ。
この際だから…と口を開いた村越の言葉に、再び全員の顔に笑みが戻った。

「彼奴はいつも俺らを巻き込むんだから、たまには逆でもいいんじゃないか?」

あまり目にしたことがないような少し悪戯っぽい村越の表情に、いち早く同意の声を上げたのは若手陣。
続いてベテラン組もここまで来たのなら全員でやるしかねぇなと、声をかけていなかったメンバー全員に電話をかけ始めた。



そして。
今、監督の部屋を前にして選手達はクラッカーを片手に突入のカウントダウン。
3、2、1…

「「監督!メリークリスマス!」」



end.



2011年クリスマス記念^^
詰め込み過ぎて雑多になっちゃったけどそこはご愛嬌!




〈おまけ〉
監督の部屋の話。

「ケーキのお裾分けって…お前やること一々可愛いな」

「だっ、だって…え、えと、甘いの好きじゃないスか、監督、だから」

「うん、好きだよ、ありがと」

「…ウス」

「何?そんな顔赤くして、あ、もしかして何か期待してた?」

「ち、違うッス!…それに期待って、何を」

「んー?例えば、」

達海はショートケーキのイチゴを徐に摘まみ上げると戸惑う椿の口に押し当て、そして自分の唇を重ねた。

「むっ!?ん、んっ」

互いの口内をイチゴが行ったり来たりしながら、咀嚼されていく。
甘酸っぱい味と達海の熱いキスに朦朧とし出す思考を何とか繋ぎ止めるように、椿は目の前の肩に添えていた手にぎゅっと力を込めた。
最後に椿の口端をつうっと伝う赤い雫を舌先で掬い、濡れた唇にちゃっとキスを落とした達海は満足そうに唇を離した。

「いっ、いきなり…!」

「嫌だった?」

「…じゃないッス、けど」

顔を真っ赤にさせて困った表情を浮かべる椿と、それを見て更に何かしてやろうかクリスマスなんだしと甘ったるい雰囲気を堪能しようとする達海。
そんな二人に訪れる、まさかのETU選手達の突入まで、あと僅か。



end.



タツバキは通常運転^^

[ 45/52 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -