041.なんでもない特別な夜/ガミキヨ
※ガミ→←キヨ設定
何だか最近いきなり寒くなったなぁと、ざわつく練習後のロッカールームで窓から見える黄色くなったイチョウの木を見ながら着替えていると、まだユニフォーム姿のガミさんが「よっ」といつもの軽い雰囲気で声をかけてきた。
脱ぎかけのインナーを首から引っこ抜いて振り向くと、ニヤニヤとあやし気な笑みを浮かべたガミさんが、今日飯行かね?と視線を俺の腹に向けたまま言った。
「飯すか、てかどこ見ながら言ってんすか」
「意外に白い、綺麗に割れた腹」
「ガミさんのが割れてる…てか見すぎッスよ、あ、飯は行きます、喜んで」
「喜んで?」
「喜んで」
ガミさんは俺の返事を聞くと満足そうに微笑んで「じゃあちゃんと喜ばせないとなぁ」とのんびり言い残し自分のスペースへと戻って行った。
再びざわざわとしたロッカールームの中に馴染んでいく俺。
たった数回会話を交わしただけなのに、自分とガミさんの周りの空気だけが一旦切り離されまた貼り付けられたような違和感があって、妙な気恥ずかしさにドクドクと心臓が煩いほどに高鳴る。
先輩と練習の後に飯に行くなんて誰にとってもごくありふれた何でもない日常の筈なのに、何だか最近は心身共に過剰反応を示してしまう自分がいてもどかしい。
例えるならば、手を伸ばせば捕まえられるぎりぎりの距離を保ったまま目の前を舞う蝶をただじっと見つめている…そんな感じ。
捕まえる気はさらさら無いのに何だか眺めていたいその自由気儘な動きに、単に興味を抱いているだけなのかは俺自身もイマイチわからないけれど今晩のお誘いに心踊っているのは確かで、俺は自然と綻ぶ顔を隠すようにTシャツを被った。
* * *
「感想は?」
「すっげー美味かったッス!」
「そりゃあよかった」
ガミさんに連れられ行った洋食屋は古い洋館を想像させるアンティークな佇まいのこじんまりとした隠れ家な店で、飯は勿論のこと酒も美味くチェーン店慣れの俺なんかはただ感嘆の声を上げるしか出来ないほどの三ツ星の店だった。
何でこんなオシャレな店を知ってるんすかという俺の質問に、年も相応に食えば自然と見つけるもんだぜと笑ったガミさんを見て、改めてあぁ自分とは7つも歳が離れているんだと気付かされる。
ガミさんの一つ一つの何気ない素振りや発する言葉の一言一句に全部意味や思いが込められているようで、逆に何も考えずに行動をする自分がとても幼稚に思えて恥ずかしくなる。
今だって折角綺麗な石畳の閑静な街をガミさんと二人並んで歩いているっていうのに気の利いた感謝の言葉一つ思い浮かばず、ただ冷たい夜風に「夜はもう寒いッスね」と鼻頭を赤くさせて笑うしか出来ないんだから。
「寒いとこ悪いんだけど、こっち来てみ」
「はい?」
少し坂になった道を上りきると小さな公園があり、そこにはライトアップされた真黄色に染まったイチョウの木が連なっていた。
地面には鮮やかな黄色の絨毯が広がり、背の高い街灯が一つベンチをぼんやりと照らしていて、公園から見下ろした街並みは東京にしては素朴で美しい夜景だった。
「…綺麗だ」
「どう?俺のお気に入り」
「やべぇッス、なんか、上手く表現出来ないけど…綺麗」
「喜んだ?」
「喜んだどころじゃないッスよ!すげー綺麗!」
黄色の絨毯を掻き分けながらイチョウの木の下まで行き空を仰ぐ。
夜風に揺れてハラハラと舞うイチョウがライトで煌めいて、改めて「すげー!」と歓声を上げてガミさんを振り返ると、予想外の顔でこちらを見ていてビックリした。
「ガミさん?」
「…はははっ」
「え?」
「あー、やっぱ連れてきてよかった」
グラウンドやロッカールームでは見たことがない柔らかな笑みを浮かべていたガミさん。
俺が意味がわからないと首を傾げていると、歩み寄ってきたガミさんが巻いていた黒いマフラーをいきなり俺の顔面に押し付けた。
ガミさんに耳も鼻も真っ赤だと笑いながら言われ俺はそのマフラーを巻く。
ふわりと香るガミさんの匂いに何だか胸が高鳴ったのは、綺麗な夜景のせいなのか、見たことがないガミさんの優しい笑顔のせいなのかはわからない。
でも「またどった行くか」というガミさんのいつもと変わらないのんびりとした雰囲気に、「喜んで!」と答えたのは言うまでもない。
end.
ガミキヨお付き合い前は結構ピュアだったらいいなぁという妄想^^
大人なガミさん、実は純粋なキヨちゃんの言動にキュンキュンしてるといいww
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[mokuji]
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