038.同じ思い、違う歩幅で/ザキバキ

※ザキバキ5年後捏造の為ご注意





ザワザワと沢山の人で賑わう空港をトランクを引き歩く。
すれ違う日本人。
独特の澄んだ空気。
見慣れた風景。
何ヵ月かぶりに足を踏み入れた日本の地は相変わらず清廉された清潔感に満ちていて、俺はほっと息を吐いた。
空港で手続きを行っている際、俺に気付いた熱いサポーターが握手やらサインやらを求めてきてどぎまぎしたが、こういうファンサービスも昔に比べると大分慣れたもんだよなぁと、まるで他人事のように思った。
それは23歳になった年、ドイツ一部リーグからの熱烈なオファーを受けての一大決心。
チームと達海監督の激励を胸に、ETUを飛び出して海を超えた遥か向こうの地で心も体も揉まれ、少しは成長出来たからだろうか。

――「俺はいつだって本気だよ、お前にだけは負けたくないから、絶対に」

2年前に日本を発つ際、ザキさんが言った言葉はいまでもずっと心に残っている。
ザキさんに勝っているなんて当時は全く考えたことが無いし、今でもその気持ちは変わらない。
第一ザキさんはETUでプレーしながら日本のA代表として選ばれて日の丸を背負っているんだ、寧ろ追いかけているのは俺の方で…ずっと、ずっとザキさんの隣に並びたくて、もっとサッカーが上手くなりたくて俺はドイツに行ったんだから。

「わーこれすごい!」

「日本代表のポスターだね」

なんて会話が不意に聞こえてそちらを振り向くと、巨大なパネルに日本代表の面々が写し出されていた。
日本サッカー界の顔である代表選手達の中には勿論ザキさんの勇ましい姿もあって、青と白のユニフォームを纏ったザキさんはとても輝いて見えた。

(いつも先に届かないとこに行っちゃうのは、ザキさんの方だ)

世良さんから定期的に届くメールで、ザキさんが雑誌やらテレビ取材やらDVD発売やらで世間一般に知られ期待されていることを知った。
俺が海外でがむしゃらにサッカーに打ち込んでいる間に大きく変わったザキさんを取り巻く世間の目に、最初はとても動揺した。
ザキさんを知っているのはフィールドプレーヤーだけでいいのに…なんて、下らなくて子供染みたことを考えもした。
いつも本気なザキさんのことを自分のエゴのままそんな風に思っていた当時の自分を思い出すと、我ながら幼稚だったなぁなんて今では反省出来るくらいには成長したけれど。
それでも、

(きっと…嫉妬してたんだろうな)

今、この一瞬ですら抱いている気持ちは当時と変わらない。
俺に負けたくないから本気だと言ったあの日のあの目を、俺はずっと大事にして寄り道せずに走ってきたんだから。

応援するサポーター。
一緒にグラウンドを駆けるチームメート。
一つのボールを巡り競り合い奪い合うライバル達。
2年間、俺が知らないザキさんと関わった全ての人が羨ましくて、ただ妬ましかったんだ。
この気持ちが先輩への単なる憧れや尊敬からくる強い思いだけでは無いってことも、やっとわかったんだ。

空港を出ると、記憶よりもずっと高い真っ青な空が眩しい程の光を放っていて、俺は咄嗟に目を細めた。
ドイツの空とはまた少し違う澄んだ透明感のある空。
同じ空の下にいた筈なのに国によってこうも違うものなのかなと、悲しさや寂しさの様な感情が一瞬湧いて、そして我ながら乙女な考えだなと自嘲気味な笑いが漏れた。

「…電話、何で出ねぇんだよ」

「あっ…と、すんません、気付かなかったッス」

「ったく…相変わらずだなお前は」

空港の駐車場で2年前とは違う黒のカッコイイ車と一緒に腕を組み佇んでいたザキさんは、わざわざ迎えに来てやったんだから感謝しろよ?と言ってニィッと意地悪そうな笑みを浮かべた。
そんな懐かしい表情にぐるぐると余計なことを考えて固くなっていた心がすぅっと楽になった気がして、思わず安堵の笑みが溢れる。

「…空港にパネルがあったッス、日本代表の」

少しだけ伸びた髪。
更にがっしりした体。
俄に柔らかくなった表情。

「ふぅん、俺もテレビで見たぜ?最近じゃフルで出てるらしいじゃん、たまにサイドバックで起用されたりしてユーティリティがあるって評価されてたぞ」

俺が知らない時間をザキさんはどんな風に過ごしたんだろう?

「…あざッス、でもザキさんは代表固定で凄いッス」

「まぁ、お前の背中ばっか見てたんじゃ格好つかねぇし、それに」

こんなことを考えているのが俺だけじゃなければいいのに。
おんなじ思いを抱いて過ごしていたらいいのに。

「大きく成長したお前の斜め前を歩けるくらいには俺も頑張ったつもりだからな…なぁ椿、」

おんなじ気持ちで、サッカーにのめり込んでいたらいいのに。

「2年って、案外長ぇな」

お前は俺がいない世界でどう過ごしたんだ。
どんな気持ちでボール蹴ってたんだよ、椿。



end.


日本代表ザキ→←海外に移籍バキで離ればなれだけど同じ気持ちでサッカーしてる…ってのを書きたかったんだよ^^;


[ 38/52 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -